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「まったく、ウチの人ったら、気が小さいんだから。
こんなことで、この先日本でやって行けるのかしら?」
イザベラ夫人は、冷たい視線を夫・ジェローン氏に向けます。
「……へ、蛇のパスタなんか食べられませーん!!」
頭を抱え込むジェローン氏は、下駄を鳴らして鼻歌交じりに去って行くそば打ち職人を涙目で見ながら、苦笑いしている伊右衛門殿と妻に視線を走らせ、大きく息をつきやした。
居住地のオランダ商館からも、迎えの同国人がやって来て「ヘビ、ヘビ、ヘビのパスタ」とうわごとの様に呟くジェローン氏を凝視し、きっと長旅でお疲れなのでしょう。とねぎらいの笑顔を送ってくれたものでした。
「アイヤー! あちらが、今度やって来たというオランダ国の商人様アルカ」
「おお、これはこれは陳先生。どちらへ?」
清国出身の漢方医・陳仙福先生は、丸々とした体躯を揺すりながら、石橋のアーチをひょこひょこ。伊右衛門殿の元へ歩いて来やす。
「うむ、肺病患者の呼吸を診る為に、ちょいちょいと煎じ薬の調達などをな。
ま、病原菌やヴィールスではなく、ゼンソクの一種だったので、大したことはあるまい」
「ご苦労様です」伊右衛門殿、陳先生にペコリと頭を下げます。
陳先生は、幕府の要人の為、遠路はるばる特効薬を取り寄せ、調合したそのお薬でお偉い方を何人も治したと言われているそうな。
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