小噺(こばなし)・引越しそば妄騒記(もうそうき)

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【2日後……オランダ商館】 「キャーッ!! だ、だ、誰か来てーーーーーーー!!」  まだ少女と言っても良い年齢のメイドが、エプロンドレスのすそが乱れるのも構わず、大慌てでジェローン氏の部屋から飛び出して来たーっ! 「ななななななっ!? どうなさった!!」  昼下がりのティー・タイム。  中庭のテラスでクリームといちじくを挟んだクレープを味わいつつ、イザベラ夫人の淹れてくれた紅茶を口に運んでいた伊右衛門氏が、音を立てて椅子から立ち上がる。 「ど、どうしたの? あの人に何か?」と夫人も真っ青。 ◆  1階書斎で、紅茶のカップとクレープを床に落とし、ジェローン氏は胸をかきむしりながらゼイゼイと、苦しそうにカーペットの上でうずくまっていたのだああああああああっ!! 「あ、あなたーっ!?」夫人半狂乱。 「ジェローン殿、お気を確かに!!」  伊右衛門氏は、夫人とメイドが見ている前で、紅茶の残りをペロッと指で舐め、続けてクレープの残りをかじったではないか!?  お毒見! お毒見である!! 「味、香りとも異常なし。もう毒はジェローン殿の体内で御座ろうか?」 「わ、私、陳先生を呼んできます!!」メイドがあたふたと走り出す。
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