小噺(こばなし)・引越しそば妄騒記(もうそうき)

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◆ ◆ 「どうしたというアルか? せっかくこれからちゃんぽんでも食そうかという時に……」  ブツブツ言いながら、オランダ商館に足を踏み入れた陳先生。 「な、なっ!? ジェローン様、どうなさった!?」 「陳先生! 拙者もよく分からんのだが、つい今さっきからひどく苦しまれておるのだ。まさか毒でも盛られたのではあるまいか!?」  陳先生は、胸元から小さな巾着袋を取り出すと、顔面蒼白で冷や汗をかき、息も絶え絶えなジェローン氏の口元で幾種類かの丸薬を潰し、油紙の上に乗せてサラサラと歯の隙間から流し込む。  そして、ジェローン氏のみぞおちを押さえると 「インシュウシンカンサンゴクシン! ナンボクチョウズイトウゴダイ!!  ホクソウミンシン・チュウカミンコク! チュウカジンミンキョウワコク!!  ハッ!!」  とまじないの様な物を唱え、患者を寝かし付けたのだった。 「うむ、これでもう大丈夫。命に別状はなかろう」 「ど、どういうことですか?」と夫人。 「毒じゃ! ジェローン様は、毒を盛られたのでアル!!」
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