小噺(こばなし)・引越しそば妄騒記(もうそうき)

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「ジェローン殿、奥様、長旅お疲れでしょう。  どうです? この近くに実に美味なる『長崎ちゃんぽん』を出す清国料理店があるのですが」 「長崎チャンピオン?」 「いえ、チャンポン」  ジェローン氏、少しうつむき加減に考え込みやす。 「お、おお……その『ちゃんぽん』なる物は、確かチャイニーズの生み出した麺料理であったと記憶しておるのですがー」 「さすがはジェローン殿。その通り!  長崎近海のエビ、イカなどの魚介と野菜を、豚の骨で煮込んだ出し汁で合わせ、中華の麺にかけたものですよ。清国と日本の食の融合です。  召し上がったことはおありですかな?」 「い、いや。し、しかしチャイニーズと言えば、怪しげなる秘薬を日常的に煎じ、事あるごとにまじないと共に用いるそうでは、あ、あ、あーりませんか?」 「ハハハハハ! ご冗談を。少なくとも、ここ出島にはその様なまじない師はおりませんし、ちゃんぽんには秘薬など含まれておりませんよ」  ジェローン氏、私生活では超の付くほど心配症なのが、たまにキズなのでありやした。
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