小噺(こばなし)・引越しそば妄騒記(もうそうき)

7/16

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「せ、せっかくのお申し出ですが、私は油っぽい物は苦手でして」 「フッ、意気地なしね。あなた」  イザベラ嬢が鼻で笑います。伊右衛門(略した)殿も苦笑い。  と、そこに 「食いねえ! 食いねえ! そば食いねえ!」  天秤ばかりに小箱を載せた、イキでいなせな若い衆が、お三方の前に現れ、声をあらん限りに張り上げます。 「おいおい、騒々しいぞ。誰かと思ったら庄三郎ではないか」 「おおっとー! こいつは伊右衛門殿」 「あ、お前も略したな……」 「へ? 何のこってす? ま、それはそうと、こちらのゲエジンさんはどこん人です?」 「阿蘭陀国よりいらしたばかりの、ジェローン夫妻だ」 「オランダ! この人、どこんだ?……おらんだ!! ひゃはははは」 「これ! 失敬だぞ、庄三郎」  夫妻、この若者が腹を抱え笑うのを、ただただポカーンと見ておりやした。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加