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二人は明け方のリビングで二枚の便箋を封筒にしまうと、妻が表に丁寧な文字で『最愛の健人へ』と綴った。
すぐに夫は玄関を出て1階に下りる。
そして206号室の郵便受けに、水色の封筒を入れた。
「たのむぜ、レナさん。……健人に届きますように」
郵便受けに向けて手を合わせて祈る。
徹夜になってしまったが、なんとなく清々しい気分だった。
あと一週間。
待ち遠しいが、待つより他にない。
健人からの返事がどんなものなのか想像もつかないが、今は何か一文字でもよいから応答が欲しかった。
十年待って一度もなかったのだ。
夫は期待から溢れ出る喜びを噛みしめ、足早に自宅に戻っていった。
***
『カタン』
あれから一週間が経ち、時刻が零時ちょうどになった時に、夫婦は揃って自宅の郵便受けを覗いた。
「……あるな」
うん。
蛍光灯の冷たい光りがともる薄暗いマンションの廊下で、二人でささやく。
十分前には無かった空色の封筒が一通入っていたのだ。
すぐに取り出し、足がもつれて転げるようにして二人で自宅へ戻る。
ドアを乱雑に閉めると、夫婦は急いでリビングに入った。
二人並んでソファーに座る。
「開けるぞ」
夫が短く告げると、ピッと剥がす様に封筒を開ける。
書いた時と同じ空色の便箋に、端整な文字がびっしりと刻まれていた。
「何か変。……五歳の子がこんなに書けるはずないわよ?」
確かにその通りだ。
パッと見、漢字をしっかりと使っている。
訝しがりながらも、夫は、妻に聞こえるように一行目を声を出して読んだ。
「『父さん、母さん、ご無沙汰しています。僕は生きていれば今は十五歳になっているはずです』」
妻の目が潤む。
そして掠れるような声を出した。
「そっか。……だからちゃんと書けるんだ。……もう十五歳だもんね」
目尻を拭う妻を横目に、夫はそれ以前にショックを受けていた。
やはり――死んでしまっていたのか。
半ば呆れめていたが、この一行は実に重かった。
十年の願いが、一瞬にして断たれてしまったのだ。
失意の中、夫は声を震わせながら読み続ける。
十年前の事件で誘拐された子供達は全員殺害されている事。
犯人はすでに自殺している事。
事件の概要と思われる内容が続くと、次に詳細、つまり犯人の名前に犯行現場、それに死亡日時や遺体が埋められている場所まで克明に記載されていた。
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