時の郵便局

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 ――是非一度お越しください。  コスモハイツ206号室 時の郵便局――  そう締めくくられた一通の葉書が、ある夫婦の元に届いた。  時の郵便局などという胡散臭いところからだ。    今日この日は夫婦にとって忘れられない日だ。  十年前の今日、夫婦の五歳の子供が行方不明になり――  名を健人(けんと)と言い、元気な男の子だった。  当時は『男児連続連れ去り事件』として大いに世間を騒がせたが、あれから十年が経つとすっかり静かになってしまった。  誘拐されたのは六人、すべて五歳前後の男児だ。  犯行現場の防犯カメラに男が写っている以外手掛かりなし。  遺体も見つからず、事件は迷宮入りの様相を呈し始めていた。  その最後の被害者が健人だった。  そして、健人の安全祈祷を、今日夫婦で行ってきたのだ。  これが一区切り……などとは考えたくなかった。  夫婦はいつまでも待つという強い決意を胸に、神社に行ってきた。  自宅に戻り、夫婦の妻が手に持った葉書をリビングのテーブルに置く。  帰宅の際に立ち寄ったマンションの一階の郵便受けに入っていたのだ。  妻はろくに読んでいないが、最後の一行だけが気になる。  コスモハイツ206号室。  つまり、この夫婦の隣の部屋だ。 「ねえあなた。……隣の部屋って空き家だったわよね?」  スーツを脱ぎながら、ルームウェアに着替え中の夫に話しかける。 「ああ、ずっと空いてるだろ? ……何でだ?」 「ウチの隣、引っ越してきたみたいなの。……それで何か怪しい店、始めたみたいよ?」  何だそれは? と、さして興味のなさそうな声を出すと、着替え終わってソファーでくつろぎ始める。  リモコンを押してブンッと音をさせてテレビをつけた。 「テーブルに葉書置いたから。……ホントに怪しいから、読んでみてよ?」  妻はそう言い残して寝室に着替えに行く。  そんな気にさっぱりならないのだが……テレビもつまらないので言われた通り葉書を読んでみる事にした。  どれどれ……と呟いてから、葉書に目を通す。
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