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『会いたい、逢いたい。あなたには、どうしても会いたい人、いますか?』
……と、始まった内容に、また宗教の勧誘か……と、諦めに似た思いを持ってとりあえず全部読んでみる事にする。
『その人は、もう二度と会えない人ですか? 会う事は叶わなくても想いを手紙にしたためる事ができます。応えを受け取る事ができます。是非一度お越しください。コスモハイツ――』
――206号。
本当に隣の部屋だった。
こんな大事な日に、何をねぼけた事を……
健人に手紙を届けるって言ってるのか……?
夫は不機嫌になりながら、一体、隣室で何が始まったのか、オカルティックな光景を想像し始めていた。
「読んだ? ……このタイミング、何だろうね?」
夫と同様に、ルームウェアに着替え終えた妻が寝室から出てくる。
リビングを横切り、ダイニングキッチンに入ると、グラスを二つ取り出した。
「怪しいよコレ。……『時の郵便局』ってのがもう完全にイカレてる」
夫が吐き捨てるように答えた。
妻は冷えた烏龍茶を注いだグラスを二つ持ってくると、一方を夫に手渡した。
「で、何だって? ……ちゃんと読んでないのよね」
そう言ってソファーに並んで座ると、テーブルに置いてある葉書を手に取った。
さっと黙読し、妻は言った。
「へー……ホント怪しいわね。……ふざけた話しよね。これで健人に手紙が届いたら百万円払ってもいいわよ?」
呆れ顔でそう言うと、妻は葉書を破り捨てた。
これは確実に詐欺だ。
夫婦はそう思い、葉書の内容などすぐに忘れようとした。
『逢いたい者に、想いが届く――』
などという、弱者を食い物にするような都合のいい言葉に……
惑わされるものかと、強く思っていた。
だがその夜――
***
「……ここは?」
真っ白な部屋が白い明かりに強く照らされている。
床も壁も天井も、白一色。
広さにして十畳くらいだろうか?
調度品が一切無いガランとした部屋の真ん中に、少女が一人佇んでいた。
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