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「話しを戻しますね。あの葉書は事実です。……健人さんに、伝えたい想いがおありですよね? ……それを届けますよ?」
一瞬ビクッとなる。
夫は顔を強張らせて一気にまくし立てた。
「何で健人を知ってるんだ! ……お前、何者なんだ!」
だが少女はうろたえる事無く、ジッと静かに夫を見つめる。
そしてどこまでも穏やかに話した。
「落ち着いてください。……私はあなたの味方です。……あなたの息子さんの事は当時の報道を見て知っただけです」
この少女の言う様に、確かに十年前の新聞を見れば健人の名前はわかる。
だが、今更そんな古い新聞を見る人間がいるとは思えなかったのだ。
少し考えればわかりそうな事に気づかずに、取り乱してしまった事を後悔する。
「す、すまない……急に息子の名前を出されたんでね」
がっくりと肩を落としてうなだれる。
息子の名前を聞く度に何かを期待して、そして裏切られるのだ。
「いえ、お気になさらずに。……では改めて伺います。……健人さんに、伝えたい事があるのでは?」
――ある。
もちろん、語りつくせないほどにある。
色々と思考しかけるが、急に常識が邪魔をしてきた。
「……あったところで、どうにもならないだろう?」
すると少女は胸の前で両手の指を組んで、お祈りのようなポーズをとった。
静かに目を閉じる。
「いえ……健人さんにキチンと届けます。……もちろん健人さんからのお返事も承りますよ」
そっと目を開く。
ダークブラウンの大きな瞳が潤んで揺れている。
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