第1章

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ピンポーン 1Rのアパートで一人暮らしを始めてやっと1年が経とうとしていた。 部屋でごろごろと寛いでいると、部屋のインターフォンが鳴った。 少しびくりとしながら玄関へ向かう。 友達がアポ無しで訪ねてくる事は珍しいし、勧誘かセールスか……はたまた町内会費の請求か。 宅配便……ではないよな。 なんて思いながらドアの覗き穴から外をそっと覗き見る。 そこに立っていたのはうさんくさい笑顔をその顔に貼り付けたヒゲのおじさんだった。 知らない人だぞ。 ちょっと警戒しつつも、ドアを開ける。 「あ、どーも。こんにちは。」 「あ、ども。」 なんて挨拶をかわす。 「俺、隣に引っ越してきた沢って者です。よろしく。あ、これ、ご挨拶のシルシに。」 って、俺の手に持っていた紙袋を半ば押し付けるように渡してきた。 「え、あ。あ、どーも。」 「じゃ、なんか困った事あったら遠慮なく言ってね。君、いい人みたいだから、おじさん助けちゃう。」 じゃって手を振りながら、隣の部屋へ消えていった。 なんだったんだ。 俺はその去り際の鮮やかさにあっけに取られて、しばらくドアあけたまま放心してた。 その沢、と名乗ったおっさんがくれたのは近くのデパートで売ってるロールケーキだった。 まぁ、甘い物が好きな彼女とおいしくいただきましたよ。 さて、俺には付き合って1年になる彼女がいた。 ちょうどこの部屋に引っ越してきたくらいに付き合い始めたんだ。 悪い子じゃないんだけど、なんていうか束縛の激しい子だった。 付き合って3ヶ月もしないうちに彼女は俺の部屋に住み着き、半同棲状態になった。 そして、この頃では喧嘩が多くなってきた。 俺にはどうしても彼女がなんで怒っているのか分からなくて、泣きじゃくる彼女を前に途方に暮れていた。 沢さんが訪ねて来た日はたまたま彼女が実家に帰っていたので、彼女はまだ沢さんの事を知らない。 沢さんが引っ越しの挨拶に来てくれた次の日に彼女は実家から帰ってきて、それで一緒にロールケーキを食べたって訳。 彼女が帰ってきたその夜、さて寝るぞって時に彼女がしくしくと泣き始めたんだ。 こういうの前からたまにあったんだけどね。
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