彼の行く先

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『メール、そうとう待ったんだけど…… 今昼休み?』 待ってた? 私からのメールを……? たった一言なのに、胸が騒いで止まらない。 理沙を見上げるとフッと満足したように笑っていた。 ひと晩悩んでいたのに、本当に簡単なことだった。 「昼休みだよ。 横に理沙もいる。 森川くん、今どこにいるの?」 『ナポリ』 「なにしてんの?」 『とりあえず、いろんなバイトして暮らしてる』 「いろんなって?」 『バルでバーテンとか』 「へー」 昼休みが終わるまで、ほんの数文字のやり取りを何度も繰り返す。 当たり障りのない話題で、私たちの距離をはかるように……。 1万キロも離れた場所なのに、 隣の部屋にいるくらい近く感じる。 イタリアは、案外近いのかもしれない……。
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