第1章

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珠はこね終わった生地に濡れタオルを被せてから、厨房から出てきました。 頭からバンダナを外して、レジに置きました。蓮が「珠?」と 首をひねりました。珠が言いました。 「休憩。発酵終わったくらいに戻ってくるから」 店を出て珠は1人で赤の国と青の国の境界の川に行きました。 流れが速い川沿いをどんどん北に歩きます。 街からうんと離れたところで珠は土手を滑るように下に下りました。 そこにある小さな橋の下。 人目につかない場所。 そこにキンキラ頭の王子様がいました。珠に気づくと、蒼王子は「珠」と声を上げて、瞳を輝かせました。 珠は眉を下げて、情けない顔で笑いました。蒼王子の隣に座った珠の顔はお店にいた時と違いとても穏やかです。珠が蒼の頬にそっと触れました。 「乱暴な姉ちゃんが悪かった。痛むか?」 蒼は「いいや」と首を横に振りました。蒼は穏やかに笑って言いました。 「珠のためなら、いくらでも」 蒼は珠の手をとって、その手の甲にそっと口づけをしました。珠は泣きそうに顔を歪めて言いました。 「……どうして? あたしなんかのために自分の株を下げるような真似まで。今更かもしれないけど、もういいよ。もう……来るなよ」 蒼は涙声の珠の赤い髪を撫でました。 「嫌だね。このくらい安いものだ。俺は冷静沈着な青の国の民。珠を守るためなら道化にだってなんにだって――…」 蒼は珠の赤い髪をかきあげて、額に残る傷跡に触れました。 「紅王女よりも俺は珠を治したい。この珠のキズも、短い髪も……ココロも」 蒼は珠の不揃いな髪をそっとすくい上げました。
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