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町外れに店を移した後、珠と蒼王子はこの川で出会いました。
馬が暴れて王子が落馬し、川に落ちたところを珠が助けたのです。
蒼は川を見つめて言いました。
「今でも覚えてるよ。薄れゆく意識の中、泳ぎ俺に駆けつけた珠の水にたゆたう赤い髪が幻想的で、まるで女神に見えた」
「……ッ馬鹿だろ。溺れてる奴を助けるのなんか当たり前だろ。誰でもやる。それが赤の国の民だ」
珠は耳まで赤く染めて、顔を自分の膝に突っ伏しました。
「あんな経験、俺は初めてだった。捨て身で助けるなんて、実の母ですらそんなことはしない。冷静沈着な青の国の民はそんなこと、しないよ」
いきなり、優しかった蒼王子の顔がキッとキツクなりました。蒼王子は珍しく、腹を立てながら言いました。
「しかし、青の国の民は実の妹の髪を嫉妬に狂って切り刻むこともしない」
珠は、はは、と笑いました。珠が短い髪のえり足を触ります。
「仕方ないよ。だってさあ、自分ら2人を差し置いて妹が隣国の王子に求婚されりゃ嫉妬もする」
珠の美しい髪を切り刻んだのは蘭と蓮でした。初めて蒼が求婚しに来た日の夜のことです。
蘭は「どうしてあんたばっかり! 苦労してきたのは私なのに!」と泣きながらヒステリーを起こして珠を殴りました。蓮は無言で珠に馬乗りになってハサミを振り落としました。
「やめてよ! 姉ちゃん! やめてったら!」
珠は必死に自身の髪をかばいましたが、無惨に髪は切り刻まれてましまいました。
蒼王子に美しいと褒められた髪は切り刻まれてしまったのです。
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