【第一章】 雪江の高校生活・いつもの風景

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 上条豊和が、雪江をじっと見ていた。目がぱっちりしていてイマドキのアイドルみたいな顔をしている。自覚はないが、雪江はどうも面食いらしい。この学校へ入学した時に豊和を見かけ、一目ぼれした。  そんなイケメンの豊和には、いつも彼女的存在がいたが、出入りが激しいため、誰かと別れたその直後を狙ってダメ元で告白をした。  すると豊和は気まぐれだったのかもしれないが、「いいよ」と即答したのだ。  大好きな豊和に、雪江は意識した笑顔を向ける。そしたら、その整った顔が急にくずれて吹きだした。豊和が肩を震わせながらクックッと笑っている。  えっ、今のって、なに? と彼がどうして笑っているのか理解できずにいた。雪江はまだ笑っている豊和のことを気にしないふりをして目を伏せた。  たった今、彼氏の豊和に笑われたのが、神宮字雪江。都立城南高校二年生。他のテーブルにも同じテニス部の生徒たちが座っていてお好み焼きを焼いていた。  テニス部の練習が終わり、豊和は他の男子部員たちと一緒に座ろうとしたのを、雪江がむりやり引っ張ってみんなと離れたところのテーブルに座らせた。  せっかく一緒にいるんだったら、絶対に二人きりになりたいって思うから。目の前の豊和はようやく笑いがおさまったらしい。それでも目元がまだゆるんでいる。 「ゆきえってさ・・・・」  ふんふんと聞きながら、ジュージューと焼けてきたイカのお好み焼きをひっくり返そうとしていた。 「ダサいよな」  、そう言われた瞬間、ショックをおさえきれなくてお好み焼きが鉄板からテーブルへポロリと転がった。  その、ダサいという言葉が雪江の頭の中でこだましていた。 「あ、ごめん。ダサいって言ったのは、その髪型だよ。イマドキ、黒のおかっぱって時代遅れだろっ」  確かに肩までのサラサラヘア。おかっぱって言うよりボブと言って欲しかった。それに染めてはいない。  それがどうした! そんな女子高生、大勢いる。しかも、しかもだ。つきあう時に豊和が雪江に言ったのだ。  好みの女性は、おとなしくて女らしい、古風な人、しかも髪を染めたりパーマなんかかけないで自然体にしている人がいい、って。  その言葉通りそうしてきた。雪江だって、パーマもかけたかった。けど、豊和がそう言ったからっ・・・・、という反論が喉元まで出かかっていた。  いけない、そんなことを豊和に言ってはならないのだ。その怒りに近い感情を懸命に呑み込む。  一目ぼれし、ずっと憧れてきたたイケメンの豊和なのだ。テニスなんて全く興味がなかったが、豊和が入部したから、雪江も入った。  いつも素振りか玉拾いだけど、男子の方を見学していられるから、満足していた。  この夏の強化合宿の時、学校の裏で告白し、Yesをもらえた。テニス部女子の憧れの人豊和をゲットしたばかりだというのに。  
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