20話。《クリスマス》

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もうすぐクリスマス。 この季節がくると少し、さみしくなる。 『カランカラン』 「いらっしゃい、与一くん」 「やあ、春乃。こんにちは、マスター」 僕は、いつもの席へ。 「おいしいコロンビアが入ったんだけど、これのストレートでいいかな?」 「うん。お任せするよ」 春乃がおいしいっていうなら間違いないでしょう。 コロンビアは、甘い香りがする、マイルドなコーヒー。 豆については、いつも春乃が解説してくれるので、結構詳しくなりました。 『ガラガラ』 ((いらっしゃい)) こんにちは、ミル姉さん。 僕は、うなずいて挨拶を返す。 『ガラガラ』 ((ご機嫌いかが?)) ミル姉さんに、笑顔を作って返事を返す。 と、ミル姉さん越しに目に入ってきたのは、棚に並べられた沢山のサンタクロースたち。 ぬいぐるみや、小さなフィギュア、へたくそな紙粘土の人形など、様々。 「今年も出してくれてるんだ」 「ええ。毎年恒例でしょ」 これは、例年、僕が春乃へお礼として渡しているサンタたち。 なんのお礼かは後程。 ぬいぐるみやフィギュアのサンタは最近の物。 へたくそな紙粘土の作品は、小学生の頃、春乃と二人で作った力作。 上手な紙粘土のサンタや、ハンドメイドのぬいぐるみは、僕のお母さんの手作り。 「来週ね」 「そうだね」 クリスマス・イヴは、僕の母さん、黄昏小夜(さよ)の命日。 僕が9歳だったから、春乃は7歳の時。 もう、あれから17年も経つ。 当時、母さんは病院のベッドにいた。 その前年に母さんが作ってくれた紙粘土のサンタをまねして、僕と春乃で一生懸命、サンタを作った。 そして、それを見せるために、春乃も一緒に病院へ行った。 今でも忘れない。 面会受付での父さんの顔。 病院へ向かう途中、お腹が減ったと言い出した僕たちの意見に父さんも賛同して、まずは腹ごしらえと、3人でファミレスに。 当時は携帯電話なんてなかったからね…。 その間に母さんの病状は急変していたらしい。 病院につくと、母さんはもう手術室の中。 それっきり、僕たちが母さんの声を聞くことはもうできなかった。
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