2話。 《おやごころ》

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「ええ。昨日、僕のお店に来たときもそれは礼儀ただしく…」 何度も何度も「すみません」と…。過剰なまでに。 ((躾だけは厳しくしましたから。でもそれもよかったのか。ただただうるさい父親でしかなかったのではないでしょうか)) 「そんな事はないと思います。あなたが憑いているその壺、お譲さんからもらったものでしょ?」 ((え?わかりますか?)) 「わかりますよ。これでもモノを見る目はもっているんです」 ((おみそれしました。実はそうなんです)) しょうがないな。 成仏の足しになるなら… 「よかったら聞かせてもらえませんか?あなたがそんなに大事にするその壺の話」 ((聞いてくださいますか。あれは、私の50歳の誕生日。あの娘はまだ小学生でした)) うなずく。 ((たいした小遣いも渡していなかったのに、あの娘は近所のフリーマーケットでこの壺を見つけたそうです)) うむうむ。 ((私が骨董品が好きなのを知っていたあの娘は、どうしてもそれを私にプレゼントしたかったらしく、幼いながらに、フリマのおじさんと交渉したそうです)) ふむふむ。 ((必至の交渉におじさんもついに折れたらしく、10万円のところを1万円にまけてくれたそうです)) ふむ。ん? ((私が仕事から帰ってくると、それはもう満面の笑みで迎えてくれるのですよ。待ちきれなかったのでしょうね。玄関先、まだ私は靴も脱いでいないのに渡してくれました)) いや、小学生が1万円て…。 ((パパ、みてみて!プレゼント!それはもうかわいくて)) 気にしてたら先に進まないか。 よしとしよう。 ((それから、私は、この壺を肌身離さず。寝るときも、風呂に入るときも、仕事に行くときも、海外出張に行くときも持ち歩きました)) よしとした側から! いやいや壺を肌身離さずて!! ((そんな優しい娘なのです)) まあ、ツッコミたい所はありましたが。 このまま成仏の流れへ…。 「あなたが娘さんの愛情を感じていたのならば、娘さんも同じように感じていたはずですよ。骨董品もそうなんです。持ち主の愛情が伝わると、彼らはより輝く。彼らも愛情で返したいと思い、輝きを増すのです」 ((ええ。骨董品となった今、よくわかります))
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