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ZZZ…。
『ガタガタ』
…ん?
『ガタガタ』
戸を開ける音。
「あ、与一くん、大丈夫?」
春乃の姿。
まったくもう…。
気の使い方が違うんだよ。
「ポン吉、だからやめろってば…」
「え?ポン吉?」
「え?違うの?」
「何言ってるの?与一くん」
春乃の後ろに、与吉こと、中学生の頃の親父の姿をしたポン吉。
「あら…ポン吉が二人?」
春乃が、僕の額に手をあてる。
「ちょっと、与一くん。すごい熱じゃない。わけのわからないこと言ってるし。与吉君、ちょっと洗面台に水入れて、タオルと一緒に持ってきて」
あらら…本物?
額に濡らしたタオルを乗せると、春乃は台所でなにやら食事の用意をしてくれてる気配。
「ポン吉、呼んできてくれたの?」
「はいな。人間の事は人間が一番だね」
「はは、そうかもね…」
ポン吉の面倒みてる僕も、ポン吉にしてみればきっと、見当違いな事してるのかもな…。
「与一くん、食べられる?」
おかゆ。
「ありがとう。いただくよ」
…うん。うまい。
「おいしい」
「もしかして、何も食べてないんじゃない?」
「うん。まぁ。」
「ダメじゃない。隣に住んでるんだからさ、すぐに言ってよ」
「そうだね、ごめん」
「病院は行った?」
「行ってない」
「でしょうね。今日はもう遅いから、明日、お父さんに車出してもらって病院行こう」
「でも、お店は?」
「明日はお母さんがいるから大丈夫よ」
「そっか。迷惑かけるね」
「なに言ってるのよ…」
そういうと、なぜか春乃は目を潤ませる。
「…家族、みたいなもんなんだからさ。迷惑くらいかけなさいよ」
「…はい」
こういう時は、よくわからないけど、うなずいておくにかぎる。
「まったく、わかってるんだか、わかってないんだか、よくわからない返事しちゃって」
バレた。
「…ごめんなさい」
「もう…。さ、今日はとにかくもう寝て!明日、迎えにくるから」
「…はい」
そういって、春乃は帰っていきました。
見送りから帰ってきたポン吉が洗面器の水を新しいのに変えてくれる。
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