19話。《さよなら》

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『ガラガラ』 シャッターを締め、一日の業務を終える。 居間へ上がり、お茶を一服。 この時に飲むお茶がまたうまいんだよね…。 お茶の種類はその時々。 最近は黒豆茶にはまり中。 口の中いっぱいに広がる、ほのかな甘さがたまらない…。 ((黄昏さん。ちょっといいですか?)) 声をかけてきたのは坪井さん。 「はいはい、なんでしょう」 ((ちと、お人払いをお願いしたいのですが)) 親父どのは蔵で秘蔵のコレクションをチェック中。 ふわふわの抱き枕(くまさんバージョン)に化けて睡眠中のポン吉をそっと部屋へと運ぶ。 壺をちゃぶ台の上に置き、改まる。 「さぁ、坪井さん。なんでしょうか?」 ((黄昏さん。私、そろそろお暇(いとま)しようかと思います)) 「お暇、というと?美代子さんが持ち帰られるんですか?」 ((いえいえ、美代子はまだしばらく、持ち帰らないと思いますよ)) 「と、いうと?」 ((そろそろ、成仏の時期が来たかな、と)) 「成仏…」 多くの幽霊の類は、坪井さんのように未練を残しているがゆえに成仏できずにいる。 坪井さんの未練は、美代子さんの行く末が見れなかったこと。 ((はい。ところで、ですが、黄昏さんは美代子の事をどう思います?)) 「ええ。素直でいいこですよね。上品でおしとやかですし」 ((ふむふむ。女性としてはどうですかな?)) 「美人ですし、作法もこころえていらっしゃる。そして家柄もよい。引く手あまたじゃないでしょうね」 ((にこにこ。ありがとうございます。で、黄昏さんにとってはどんな存在?)) 「え?僕にとってですか?そうですね、かわいい妹みたいな存在ですかね」 ((にこにこ。やっぱりそうですよね。そう思っていました。セオリー通りの回答をありがとうございます)) 「セオリー?」 ((いや、いいです。でね、美代子はもう立派な大人です)) 「はい。そう思います」 ((彼女、人を見る目もしっかりできたようです)) 「人を見る目…」
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