3話。 《コーヒータイム》

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『休憩中です。ご用の方はお隣の喫茶店へ』 店の引き戸を閉じて、プレートを掛ける。 本日は水曜日。 ただいまの時間、午後3時。 僕の店は基本、定休日は設けてません。 でも、こうして、たまにさぼったりします。 だって、暇なんだもん。 『カラン、カラン』 やってきたのは、僕の店の隣にある喫茶店。 お店の名前は『はるのかぜ』。 「こんにちわー」 「いらっしゃい」 出迎えてくれたのは、20そこそこの女の子。 僕より3こ下だから、正確には23歳。 このお店のお譲さん。 隣の家だから、必然的に幼馴染。 「あれ、マスターは?」 「あー、パチンコでも行ってるんじゃない?」 「ふーん」 いつものやり取り。 この一年、ほぼ毎日来てるものだから、積もる話は特にない。 「どお?なんか売れた?骨董品」 「売れないなー」 「なかなか景気よくならないね~」 「そうねー」 たわいもない会話。 この不景気、金策でものを売りに来る人はけっこういるけど、 買いに来るひとはめったにいない。 「はい、ミックスジュース」 まだなにも頼んでいないのに、勝手に出てくるミックスジュース。 子供のころ、遊びに来るといつもマスターが出してくれていた。1年前、久しぶりにこのお店に来たときに、あまりの懐かしさに注文し、しばらくマイブームにしていたら、いつのまにか注文しなくてもこれが出てくるようになった。 お店の名前、『はるのかぜ』は、お店を始めた店長、つまりこのこのお父さんがつけた名前。 タッチの『南風』に憧れて、始めたらしい。 『みなみかぜ』が5文字なので、『春風(はるかぜ)』とはせず『はるのかぜ』。 そしてこの娘の名前は、はるの(春乃)。 お店の名前、元々はまんまの『みなみかぜ』だったけど、春乃が産まれた日に改名したんだって。 僕が小さいころは、やたらマスターに、野球をやれと薦められたものだ。 やらなかったけど。 「おまたせ」 「どうも」 「じゃ、ごゆっくり」 あとは、ほっといてくれる。 店内には日替わりでクラシックやジャズが流れている。 この静かな店内で時間を忘れてぼーっとするのが至高のひと時。
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