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『休憩中です。ご用の方はお隣の喫茶店へ』
店の引き戸を閉じて、プレートを掛ける。
本日は水曜日。
ただいまの時間、午後3時。
僕の店は基本、定休日は設けてません。
でも、こうして、たまにさぼったりします。
だって、暇なんだもん。
『カラン、カラン』
やってきたのは、僕の店の隣にある喫茶店。
お店の名前は『はるのかぜ』。
「こんにちわー」
「いらっしゃい」
出迎えてくれたのは、20そこそこの女の子。
僕より3こ下だから、正確には23歳。
このお店のお譲さん。
隣の家だから、必然的に幼馴染。
「あれ、マスターは?」
「あー、パチンコでも行ってるんじゃない?」
「ふーん」
いつものやり取り。
この一年、ほぼ毎日来てるものだから、積もる話は特にない。
「どお?なんか売れた?骨董品」
「売れないなー」
「なかなか景気よくならないね~」
「そうねー」
たわいもない会話。
この不景気、金策でものを売りに来る人はけっこういるけど、
買いに来るひとはめったにいない。
「はい、ミックスジュース」
まだなにも頼んでいないのに、勝手に出てくるミックスジュース。
子供のころ、遊びに来るといつもマスターが出してくれていた。1年前、久しぶりにこのお店に来たときに、あまりの懐かしさに注文し、しばらくマイブームにしていたら、いつのまにか注文しなくてもこれが出てくるようになった。
お店の名前、『はるのかぜ』は、お店を始めた店長、つまりこのこのお父さんがつけた名前。
タッチの『南風』に憧れて、始めたらしい。
『みなみかぜ』が5文字なので、『春風(はるかぜ)』とはせず『はるのかぜ』。
そしてこの娘の名前は、はるの(春乃)。
お店の名前、元々はまんまの『みなみかぜ』だったけど、春乃が産まれた日に改名したんだって。
僕が小さいころは、やたらマスターに、野球をやれと薦められたものだ。
やらなかったけど。
「おまたせ」
「どうも」
「じゃ、ごゆっくり」
あとは、ほっといてくれる。
店内には日替わりでクラシックやジャズが流れている。
この静かな店内で時間を忘れてぼーっとするのが至高のひと時。
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