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「ねえ、春乃ちゃん。今日のコーヒー、あんまりおいしくないね」
思わぬ一言にリラックスモードを解除される。
発信源は奥のカウンターに座る常連さん。
外ではハットを被ってステッキをもつ、ジェントルマン。
ハットを脱いだ店内では、綺麗に整った白髪頭が上品さを醸し出している。
「ああ、やっぱりそうですか…」
「豆でも変えたの?」
「いいえ、豆は変えてないんですけど、この2、3日、評判わるいんですよ…。新しく変えてたグラインダーのせいかな」
グラインダーとは、コーヒーミルの業務用の呼び方。
ふとカウンターを見ると、そこにはいつも置いてあった、古めかしい骨董品ではなく、クラシカルなデザインながらおしゃれな、新品のミルが置いてあった。
「他の豆で、もう一度入れなおしてみますね」
「わるいね」
春乃は、ガラス瓶からコーヒー豆をすくうと、新品のミルのふたを開け、豆を注ぎ込む。
『ガラガラガラ』
『ガラガラガラ』
丁寧に挽く春乃の手元からは、ここちよい音が、ここちよいリズムで聞こえてくる。
『ガラガラガラ』
『ガラガラガラ』
((ま・・・れ、・ず・なれ))
ん??
『ガラガラガラ』
((まず・・れ、まずく・れ))
ここちよい音に混じって、雑音が聞こえる…
『ガラガラガラ』
((まずくなれ、まずくなれ))
あまり言いたくないセリフだけど・・・
妖怪のせいかな??
僕は店内を見回す。
カウンター裏の棚の上には、この前まで使われていたコーヒーミル。
「どうぞ、グァテマラとコロンビアのブレンドです」
「ありがとう」
・・・。
「どうですか?」
「んー・・・いつもより香りが弱いかなぁ」
僕は、コーヒーの味や風味については詳しくないけど、きっとおいしくないのだろう。
これは春乃のせいでも、新しいミルのせいでもない。
きっと、妖怪のせいなのです!
すみません、これ言っとけば人気でるかなと思って、言ってみました。
妖怪にまではなってないけど、先代のミルのせいですね、これは。
「ごめんね、春乃ちゃん。また来るわ」
ジェントルマンはお代を置いて、席を後にする。
『カランカラン』
「あ…ありがとうございました…」
でも、このまま ほおっておくと本当に妖怪になっちゃうな…。
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