3話。 《コーヒータイム》

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コーヒータイムを強制的に終了させられ(コーヒーは飲んでないけど)、僕は渋々、骨董堂へもどる。 「ただいまー」 ((おい、与一坊、どこほっつき歩ってたんだ!しっかり働きやがれ)) やれやれ、また始まったよ。 ((出るなら出るでいいけどな、客の一人もひっぱってきやがれってんだ。この1週間、一人も客こねぇじゃねえか)) 店にお客さんが来なくても、ちゃんとネットで売れてるんですよ…。 親父殿の頃よりはまともに稼いでいるんですけどねー。 ((なんでい、文句でもあるのかい。言ってみやがれ)) 言ったらまた長くなるでしょ。 「ございませんよ」 僕は黙って通り過ぎる。 奥の居間に入ると、ミルを取り出す。 ((まずくなれ…。まずくなれ…)) 「ちょっと、ミルさん。お話し聞きたいんですけど」 ((まずくなれ…。まずくなれ…)) 「ミルさん、聞いてます?」 ((え?わたし?)) 「そうですよ」 ((わたしの声、聞こえるの?)) 「ええ。だから話かけてます」 ((あらまあ、びっくり。ただのボケッとした坊ちゃんじゃなかったのね)) 僕はまわりからどんなふうに見られているんだろう。 少しは他人の目も気にしたほうがいいのかな…。 「でね、ミルさん」 ((ミル姉さんでいいわ)) ミル姉さん…。 昔やってた、犬が笑って冒険するバラエティ番組のキャラクターみたいだな。 「ミル姉さん。ちょっとお伺いしたいんですけど」 ((なにかしらん?)) 「なんで、そんな呪文を繰り返しているんですか?」 ((ああ、まずくなれ…のこと)) 「そうです」 ((ずいぶん直球ね。嫌いじゃないわ。私もコーヒーはストレートが好きなの)) ストレートってのは、豆をブレンドしていないって事ですな。 ((ブレンドすると、硬さが違う豆が入るから、ちょっと疲れるのよね)) 「へー、そうなんですねー」 ((まあ、職業あるあるね)) ミルの世界にも色々あるんですね。 ((で、ごめんなさい、なんであんな事言っているか、よね)) ちゃんと本筋にもどしてくれるタイプなんですね。 助かります。 「はい。話してくださいますか?」
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