3話。 《コーヒータイム》

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((しかたないわね…。私も実は誰かに話したかったのよね。でも誰も聞いてくれないじゃない?愚痴って溜めるとよくないのよね~、お肌に)) お肌? ((あらごめんなさい、またそれちゃったわね。じゃあ、聞いてくださいます?実はね…)) 何度か脱線しながらも、話は聞くことができた。 ようするに、あらましはこうだ。 自分の調子が良くないことはわかる。 だから代わりのミルを用意されてしまうのも当然だ。 どんなミルが来るのか心配していたが、さすがマスター。 年期ははいっていないけど、なかなかいいミルを仕入れてきたようだ 。 お客さんも喜んでいる様子でひと安心。 ところが、あまりにもお客さんの評判がいいのと、春乃のコーヒーを挽く時のあの『ガラガラ』のリズムが心地よすぎて、ついに羨ましくなり、無意識のうちに妬み、嫉みに発展。 羨ましいはうらめしいとなり、気づいたら、コーヒーを挽く時に((まずくなれ))とつぶやいてしまっていたという。 ((わかってるわ…。私はもう必要ないの。でも、春乃のあの心地よい音を聞いているとね…。だめなのよ)) 「わかる気がします。僕もあの音は好きですから」 ((ありがとう。でもいいわ。ね、一つ相談があるの)) 「なんでしょう?」 ((わたし、あそこにいるのつらいのよ。毎日わたしじゃない子が奏でるあのルンバを聞かなきゃいけないのかと思うと…)) あ、ミル姉さん的にはルンバなんだ。コーヒーだけに… ((ねぇ、私を引き取ってくれない?)) 「引き取る?」 ((ええ。あのお店にいたくないの。インテリアとしてでも、なんならリサイクル用の廃材としてでもいいから、どこか遠くに売り飛ばしてちょうだい)) 「そこまで。でも…」 ((でもなによ?)) 「春乃は嫌がりますよ、きっと」 ((まぁねぇ。あの子の性格だからね。でも、だからあなたに頼んでるんじゃない。なんとかしてよ。男でしょ?)) 「そう言われましても…」 ((まぁ、意気地がない)) 「あ、なら、修理しましょうよ」 ((できたら世話ないわよ)) そう、それが一番世話ないんです。 「ミル姉さんはどちらの出身なんですか?」
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