4話。 《職人の魂》

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「今、息子らは作業しでっがら、ちょっとまっででね」 「はい。すみません」 「じゃあ、おれもいっでくっから、テレビでも見でで。はい、チャンネル」 リモコンの事をチャンネルと呼ぶ。 まあ、それはいいとして、おばあちゃんは手ぬぐいを被ると、そそくさと部屋をあとにする。 やっぱり、急に来たのは迷惑だったよな… 岩手めんこいテレビのお昼のニュースを見ながら時間をつぶしていると、この家の家主らしきお父さんがお見えになる。 「お待たせしました」 お歳は50歳中ごろだろうか。 「この吉村鋳鉄所の所長、吉村です」 いかにも職人、といった感じ。 なかなかの貫録だ。 「突然お邪魔してすみません」 東京駅であわてて買った手土産を差し出す。 「つまらないものですが」 「ありがとうございます」 愛想笑いもみせずに受け取る。 「・・・。」 「・・・。」 手土産は、会話のきっかけになることもなく、役目を終える。 「…さっそくですが、今日お伺いさせていただいたのは…」 いきなりだけど本題に入ることにした。 抱えていた風呂敷からコーヒーミルを取り出す。 「こちらのコーヒーミルは、吉村さんがおつくりになったものですか?」 「・・・」 職人は、無言でコーヒーミルを見分する。 「違いますな…」 「え?」 「私ではありません。私の父が作ったものです」 「あ、そうでしたか。お父様が」 「父は遊びで様々なものを作っていたようでした。あのころは大分と台所にも余裕がありましたから。今はそんな金にならないもの作る余裕など一切ありませんがね」 …なんか、アウェイな感じ? 「あの、これ、臼のところが壊れてしまったようなのですが…」 「それがなにか?」 「修理…などできませんでしょうか?」 「できませんな」 ((・・・。)) まいりましたな、こりゃ。 「では、失礼」 職人は、そういうと、一礼して客間を去った。 客間に取り残された僕とミル姉さんの間には、非常に微妙な沈黙が数秒間流れる。 ((与一さん、しかたないわねぇ。帰りましょう)) 「でも…」 ((いいのよ。ここまで来てくれただけでも嬉しいわ。帰りましょ)) 「そうですか…。では、ひとまず、帰って別の手を考えましょう」 僕は、席を立ち、部屋を出る。 「すみません、お邪魔しましたー!失礼します」 人の気配がするほうへ声をかけ、屋敷を後にする。
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