4話。 《職人の魂》

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ひとまず、街へ出るバス停へ。 ((与一さん、もう大丈夫ですよ…。気は済みました。帰りましょう)) 「今日はもう遅いですし、とりあえず宿をとりましょう。そしたら、明日、また時間ができますから、ほかの職人さんもあたってみましょう」 せっかくここまで来ましたしね。 片道1万5千円…。 「はぁ…」 バス停のベンチに座ると、ついついため息がでてしまう。 「黄昏さーん!!」 遠くから呼び止める声。 「はぁはぁ、よかった、間に合った」 声の主は、工房で最初に声をかけてくれた、若い男性。 「吉村さんの…」 「はい。吉村の息子で、匠(たくみ)といいます」 職人さんらしいお名前で。 歳の頃は30くらいでしょうか。 「匠さん。なにかご用でしょうか?」 「今日は、どちらへお帰りで?」 「街に出て宿でも探そうかと思っていますが」 「そうですか。夕食は?」 「ええ、これから探します」 「そうですか。では、うちで食べてってください」 「吉村さんのお宅で?」 「はい。実は、ばーちゃん…祖母が黄昏さんの分も用意しちゃって。久しぶりにお客が来たといって、張り切ってしまったのですよ」 「それはそれは…すみません、ご迷惑を」 「とんでもない!あんなに元気なばーちゃんは久しぶりに見ました。さ、それではどうぞ」 と、いう事で、流れに身を任せ、吉村家で食事をいただく事に…。 食卓には、匠さんとおばあちゃんと、僕。 お母さんは、街へ働きに出ていて、帰りは遅いんだとか。 「あの、ご主人は…」 「父は、いつも工房で食べるんですよ。一人で晩酌しながら」 「へえ」 「窯と話すんですって」 「ほぉ」 「変な人でしょ。窯が話すわけないのにね」 …うなずけない。 「でも、向かい合ってみると語りかけてくる気がするんですよね、不思議と。わからないですよね」 …わかる気がします。不思議と。 「あ、そうそう、黄昏さんはコーヒーミルを直しにきたんですって?」 「ええ」 「親父、なんていってました?」 「できません、って」 「やっぱり…。親父、じいちゃんが死ぬ前、喧嘩してたんですよ」 「喧嘩?」
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