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「そう。じいちゃんは物好きで、色んなもん作ってたんですよ。でも、親父は金の無駄だからやめろって。そんなものは伝統でもなんでもない、俺たちは伝統を守ればいいんだ。余計なことはするなって、ね」
頑固な職人さん、って感じなんですね。
「じいちゃんが死んだのは、もう、5年も前なんですけどね。その喧嘩、まだ続いてるみたいで」
「そうなんですか」
「あ、すみません、こんな話しちゃって…。ごはん食べてください!あばちゃんの“ひっつみ汁”、うまいよ!」
…たしかにうまい。
カツオのお出しに、キノコのうまみがにじみだし、
鶏肉にしっかりとしみこみ、里芋に人参が程よく煮込まれ、そしてなにより、もっちりしたワンタンみたいな団子が汁によく絡む。
「うまい!」
******
その後、ご帰宅されたお母さんも合流。
岩手の地酒を買ってきてくださり、食卓は小さな宴会に。
お母さんの口から、頑固がすぎるだの、融通が利かないだの、
一通りご主人の愚痴を聞き終えたところで、お開きとなりました。
あ、愚痴といっても、
おばあちゃんも加わっての、大笑いしながらの愚痴大会。
家族の暖かさ、久しぶりです…。
で、よっぱらった僕は、そのまま匠さんのお部屋に泊めてもらう事に。
僕、お酒弱いからね。もうフラフラ…。
「与一っちゃん、じーちゃんのコーヒーミル、見せてよ」
「いいですよ」
風呂敷からミル姉さんを取り出す。
匠さんは、まじまじとミルを眺める。
「これがじいちゃんのコーヒーミルかぁ…」
((あら、いい男じゃない))
「綺麗だなぁ…。この流線型がいいよねぇ」
((ま、うれしい))
「この歯車のところなんかも…芸が細かいなぁ」
((褒めるのがお上手だこと))
「…なんか、話しかけてきてるような気さえするね」
はなしかけてます。
「よいっちゃん、ありがとう」
「いいえ。ミルも喜んでるみたいです」
「はは、だと嬉しいね」
ご満悦ですよ。
「ねえ、よいっちゃん。これ、僕に直させてくれないかな?」
「え?いいんですか?」
「うん。明日、明後日と親父いないんだよ。組合の集まりで出かけちゃうからさ。その隙に…」
「それ、大丈夫ですか?」
「うん。実はさ、俺も親父と考え方違ってて…じいちゃん派なんだよね」
匠さんは、ワントーン落として話し始めました。
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