4話。 《職人の魂》

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「そう。じいちゃんは物好きで、色んなもん作ってたんですよ。でも、親父は金の無駄だからやめろって。そんなものは伝統でもなんでもない、俺たちは伝統を守ればいいんだ。余計なことはするなって、ね」 頑固な職人さん、って感じなんですね。 「じいちゃんが死んだのは、もう、5年も前なんですけどね。その喧嘩、まだ続いてるみたいで」 「そうなんですか」 「あ、すみません、こんな話しちゃって…。ごはん食べてください!あばちゃんの“ひっつみ汁”、うまいよ!」 …たしかにうまい。 カツオのお出しに、キノコのうまみがにじみだし、 鶏肉にしっかりとしみこみ、里芋に人参が程よく煮込まれ、そしてなにより、もっちりしたワンタンみたいな団子が汁によく絡む。 「うまい!」 ****** その後、ご帰宅されたお母さんも合流。 岩手の地酒を買ってきてくださり、食卓は小さな宴会に。 お母さんの口から、頑固がすぎるだの、融通が利かないだの、 一通りご主人の愚痴を聞き終えたところで、お開きとなりました。 あ、愚痴といっても、 おばあちゃんも加わっての、大笑いしながらの愚痴大会。 家族の暖かさ、久しぶりです…。 で、よっぱらった僕は、そのまま匠さんのお部屋に泊めてもらう事に。 僕、お酒弱いからね。もうフラフラ…。 「与一っちゃん、じーちゃんのコーヒーミル、見せてよ」 「いいですよ」 風呂敷からミル姉さんを取り出す。 匠さんは、まじまじとミルを眺める。 「これがじいちゃんのコーヒーミルかぁ…」 ((あら、いい男じゃない)) 「綺麗だなぁ…。この流線型がいいよねぇ」 ((ま、うれしい)) 「この歯車のところなんかも…芸が細かいなぁ」 ((褒めるのがお上手だこと)) 「…なんか、話しかけてきてるような気さえするね」 はなしかけてます。 「よいっちゃん、ありがとう」 「いいえ。ミルも喜んでるみたいです」 「はは、だと嬉しいね」 ご満悦ですよ。 「ねえ、よいっちゃん。これ、僕に直させてくれないかな?」 「え?いいんですか?」 「うん。明日、明後日と親父いないんだよ。組合の集まりで出かけちゃうからさ。その隙に…」 「それ、大丈夫ですか?」 「うん。実はさ、俺も親父と考え方違ってて…じいちゃん派なんだよね」 匠さんは、ワントーン落として話し始めました。
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