1話。 《街の外れの骨董堂》

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僕の名前は黄昏与一郎(たそがれよいちろう)。 僕は子供の頃からお化けが見えた。 お化け、つまり、幽霊や妖怪の類い。 産まれながらに見れたので、あまり気にしたことはない。 それらのほとんどは、危害を加えてこないし、怪しいやつには近づかなければそれですむ。 それより、気になったのは、僕の古くさい名前。 小学校では、よくからかわれたものだ。 でも、それもお化けと一緒。 気にしなければ、気にならない。 そのうち、誰もその事で僕をからかうことはなくなった。 父、黄昏権兵衛(たそがれごんべえ)はとにかく、古くさいものが大好きで、 この店も好きが高じて始めたらしい。 店に並ぶ品々は、親父の好みで集めたコレクション。 もはや、ただの趣味とも言えなくない。 なんでそんな店を継いだかって? だって親父がうるさいんだもん。 死んだ親父はこの店に未練タラタラ。 自分を縛って成仏しない。 いわゆる地縛霊。 夜な夜な僕の枕元に立っては ((店ひらけ~、店ひらけ~)) って。 うるさくて寝れやしない。 3年間務めた銀行には特に未練なし。 ならいっそ寝れないよりはましか、ってな感じで、職場を、カウンターの裏からボロボロのレジの裏に変えました。 きっと、僕は地縛霊になる事はないでしょう。 だって、未練なんてつくれそうにないもん。 「すみません」 あ、お客さん。 スーツ姿の男性客。 「いらっしゃいませ~」 こんな店でもお客さんが来たときの挨拶だけは一流です。 だって、銀行仕込みだもん。 「お客様、本日のご用件はなんでございましょ」 手をすりすり。 って、どんな銀行やねん! おほん、、 「なにかお探しですか?」 努めてさわやかに。 「買い取りお願いします」 『ドンッ』 おもむろにアタッシュケースをカウンターに乗せる。 『ガチャ』 お客さんは馴れた手つきでケースを開く。と、そこには木箱。 男は、ポケットから手袋を取り出し、木箱を開ける。2本の巻物。 美術品のブローカー屋さんですな。 「江戸時代初期の絵巻物です。作者は不明ですが、かなりの名作です。年式だけでも相当な値打ちがつくかと。これ、年代鑑定証」 アタッシュケースのポケットから書類を取りだす。
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