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「俺、デザインの学校でてるんだけど、そこ行くの親父には反対されてたんだよね。必要ない、工房で学べばそれでいいって。でも、じいちゃんが行かせてくれた。じいちゃんのお金で」
僕は黙ってお話しを聞く。
「でね、いろんなアイデア見つけてきたわけ。鋳鉄の。万年筆あったらおしゃれじゃん、とか、スマホカバー作ったらおもしろいんじゃない、とか、アタッシュケース作ったら丈夫さのPRにつかえるよね、とか」
ふむ。
「でもね、親父に話したらそれはもうお怒りで。お前は伝統を守ることだけを考えればいい、ってね。他の工房では、照明器具作ったり、キャンドルホルダー作ったり、いろいろやってるんだよ?でも親父は、茶器と鉄瓶しか作らない。これがうちの工房のやり方だ、といってね」
ふむ。
「じいちゃんは、俺が学校いってる間に死んじゃったんだけどね、昔から色んな物作っててね。その色んな物ってのはほとんど人にあげちゃって、あまり残ってないんだけど」
ふむ。
「親父は、ほいほい人にあげちゃうじいちゃんの性格が嫌だったんだろうね。景気がよかった大昔ならいいけど、不景気になってからも同じ感じだったから…」
ふむ。
「で、話もどすけど、そんな感じだからさ、じいちゃんの作品見れる機会少なくて。いやあ、バス停まで走ったのも、本当はばあちゃんが飯つくっちゃったからじゃなくて、俺がこのコーヒーミル、じっくり見たかったからなんだよね」
ふむ。
「ってことで、じっくり見た結果、是非、俺に直させてほしい。じいちゃんの魂、感じたいんだよね」
…だってよ、ミル姉さん。
((いいわよ。お願いするわ))
「よろしくお願いします」
「お、やらせてくれるか!ありがとう!」
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