4話。 《職人の魂》

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と、いう事で、その夜、匠さんによる徹夜の作業が始まった。 ミル姉さんのパーツを見ながら、設計図を書き、型を起こす。 型は、お湯で温めた粘土のような樹脂で作りだす。 「ほんとはこれ、南部鉄器の作り方じゃないから、親父に見つかったらカミナリもんなんだけどね」 と、言いながら。でも、おそらくそれがベストの方法なのだろう。 僕も、なにができるわけでもないけど、隣で見守った。 匠さんは、ど素人の僕にも意見を求めてくれる。 僕の素上は明かしているから、骨董品屋の主として、どうしたら価値がでるか、とか。 匠さんは、故障している臼の部分だけなく、ハンドルの装飾、それにともなう間接的なパーツも手直しさせてくれという。 僕は、こっそりミル姉さんの意見を聞きながら、賛同した。 匠さんは、何度も何度も、作っては手直しを加え、加えてはまた直し、とうとう型に向かい合ったまま朝を迎えた。 そして、親方(お父さん)の外出を見送ってから、いよいよ工房へ。 「さあ、いよいよだね」 匠さんも、僕も、眠っていないクマだらけの顔にマスクをつけて、準備は万端。 僕だけは匠さんの計らいでゴーグルをつけさせてもらっている。 「さぁ、火を入れるよ」 お父さんが毎晩語り合っているという窯に火を入れる。 『ゴー・・・』 一気に工房の温度が上昇する。 炉に材料となる鉄を入れ、こちらは一度キープ。 鉄には、程よい硬度がでるように石灰石、コークスを混ぜ、そしていい味が出るように銅も加えてるらしい。 そのあたりは匠さんにお任せだ。 そして、昨日徹夜で作った型。 型をセットした器に砂を敷き詰め、型を外す。 すると、砂は型の形にへこんだ空間ができる。 これを、表・裏と作り、重ね合わせる。 これで鋳型(鉄を流し込む型)が完成。 準備ができた。 いよいよ、鋳型に鉄を流し込む。 「しゃっ!」 匠さんは、気合を入れ、バケツのような器具を取り出し、溶鉱炉にセットする。 「いくぞ!」 溶鉱炉のコックを回すと、ドロドロに溶けた、マグマのような液体がバケツに注ぎ込む。 マグマは、バチバチと火花を散らしている。 「さぁ、魂込めるよ!」 匠さんは、誰にいうでもなく、自分自身に声をかけると、バケツを構える。 もう、匠さんの視界に僕ははいっていないだろう。
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