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と、いう事で、その夜、匠さんによる徹夜の作業が始まった。
ミル姉さんのパーツを見ながら、設計図を書き、型を起こす。
型は、お湯で温めた粘土のような樹脂で作りだす。
「ほんとはこれ、南部鉄器の作り方じゃないから、親父に見つかったらカミナリもんなんだけどね」
と、言いながら。でも、おそらくそれがベストの方法なのだろう。
僕も、なにができるわけでもないけど、隣で見守った。
匠さんは、ど素人の僕にも意見を求めてくれる。
僕の素上は明かしているから、骨董品屋の主として、どうしたら価値がでるか、とか。
匠さんは、故障している臼の部分だけなく、ハンドルの装飾、それにともなう間接的なパーツも手直しさせてくれという。
僕は、こっそりミル姉さんの意見を聞きながら、賛同した。
匠さんは、何度も何度も、作っては手直しを加え、加えてはまた直し、とうとう型に向かい合ったまま朝を迎えた。
そして、親方(お父さん)の外出を見送ってから、いよいよ工房へ。
「さあ、いよいよだね」
匠さんも、僕も、眠っていないクマだらけの顔にマスクをつけて、準備は万端。
僕だけは匠さんの計らいでゴーグルをつけさせてもらっている。
「さぁ、火を入れるよ」
お父さんが毎晩語り合っているという窯に火を入れる。
『ゴー・・・』
一気に工房の温度が上昇する。
炉に材料となる鉄を入れ、こちらは一度キープ。
鉄には、程よい硬度がでるように石灰石、コークスを混ぜ、そしていい味が出るように銅も加えてるらしい。
そのあたりは匠さんにお任せだ。
そして、昨日徹夜で作った型。
型をセットした器に砂を敷き詰め、型を外す。
すると、砂は型の形にへこんだ空間ができる。
これを、表・裏と作り、重ね合わせる。
これで鋳型(鉄を流し込む型)が完成。
準備ができた。
いよいよ、鋳型に鉄を流し込む。
「しゃっ!」
匠さんは、気合を入れ、バケツのような器具を取り出し、溶鉱炉にセットする。
「いくぞ!」
溶鉱炉のコックを回すと、ドロドロに溶けた、マグマのような液体がバケツに注ぎ込む。
マグマは、バチバチと火花を散らしている。
「さぁ、魂込めるよ!」
匠さんは、誰にいうでもなく、自分自身に声をかけると、バケツを構える。
もう、匠さんの視界に僕ははいっていないだろう。
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