4話。 《職人の魂》

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ドロドロに溶けたマグマが、まるで生き物かのように鋳型の中へ流れ込む。 その日の行程はこれで終わり。 この夜、匠さんと二人、いや、ミル姉さんも含めて工房で夜を過ごした。 溶鉱炉を前に二人で酒を酌み交わす。 「親父がいなくなるとね、いつもここで酒飲むんだ」 匠さんは語りだす。 「窯に向かって話しかけるとね、じいちゃんが答えてくれるような気がするんだよね」 溶鉱炉には、霊はとり憑いてはいない。 でも、きっと、職人の魂はそこに宿っていて、きっと、職人にしかわからない形でそこに現れるのだろう。 「これさ、俺が作った試作品なんだ」 そういって、匠さんは様々な小物を取り出す。 鉄製のオイルライター(いわゆるジッポーライターみたいな形のもの)、ウィスキーボトル、ベルトのバックル、ペンダントなどなど。 「でもね、親父には見せてない。こんなの南部鉄器じゃないって言われるのがオチだから。実際、南部鉄器らしさは出てないし、技法もメチャクチャだからね」 でも、いずれも魂の気配を感じる。 魂になりかけの、想いと言ったほうが正しいだろうか。 「暇見つけると、こんなんばっかやってるから彼女もできないんだよね」 僕は暇だらけなのに彼女できませんけど…。 「どう思う?」 唐突にかけられる問い。 「え?彼女?」 「ちがうよ(笑)。試作品!」 ああ、そうだよね。 「僕はこう思います。伝統技法は使われていないかもしれないけど、伝統的に受け継がれてきた魂はこもっている」 匠さんは、満面の笑みを浮かべて、酒を煽る。 「ありがとう。嬉しいよ。なぜかしらないけど、君には見てもらいたかったんだ。君はなんていうか…モノの本質が見える人のような気がする。きっと一流の骨董屋さんなんだね。そんな君にお世辞でもそういってもらえて、少し自信がついた」 匠さんは、コップを握りしめると、一度目をつむり、見開く。 なにか、心を決めたようだ。 翌日、朝から僕たちは工房へ。 「さ、いよいよご対面だ」 鋳型をハンマーでたたき割る。 すると、そこには鉄でできたミル姉さんのパーツが。 パーツは、この上なく生き生きとしている。 まるで、卵からかえった新しい命を見ているかのようだ。 サビ止めのために一度パーツを木炭炉に入れ、焼く。 その後さましたパーツを研磨。
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