4話。 《職人の魂》

10/14
前へ
/181ページ
次へ
まるで、我が子をいたわるような、優しい手つきで、それは丁寧に何度も何度も磨かれる。 「できた…。うん、我ながらいい出来!」 パーツをミル姉さんに取り付け、見分。 ミル姉さんは、依然にもまして輝きを放つ。 もはや、コーヒー器具の領域を脱し、芸術品の域も超え、生命の躍動すら感じさせる輝き。 ((ああ…感じるわ…。体中から力があふれ出すような感じ)) 「さ、さっそく、挽いてみよう、と、言いたいところだけど…」 匠さんは、僕に視線を移し、言いにくそうに続ける。 「もうひとつ、ワガママきいてもらってもいい?」 有無を言わさない視線。 この視線を前にしてNOと言う度胸は僕は持ち合わせていませんでした。 ***夜*** 匠さんのワガママ、というのは、最初に挽いたコーヒーを、親方に飲んでもらうこと。 今まで、自作の品を見てもらったことも、作っていること自体も明かしたことのない匠さん。 彼にとっては一世一代の大勝負を、今夜決行するというのです。 工房…。 中では親方が一人、晩酌をしているはずです。 「わるいね、つきあってもらっちゃって」 「いいえ。でもいいんですか?こんな大事なところに僕がいて」 「うん。なんかいてほしい。ほら、このミルのパーツ作った時もさ、よいっちゃんの意見、めっちゃ参考になったし」 「そんな、素人意見だよ」 「そんなことない。まるで、ミルの気持ちになったかのような、本当に的を得た意見だった」 まぁ、ミル姉さんに直接聞いて答えた回答だからね。 「よいっちゃんがいなければ、こんな自信をもって見せられるもの、作れなかったと思うんだよ。だから、さ、最後まで見届けてほしいんだな。いいかい?」 僕は、ただ黙ってうなずきかえす。 いよいよ、匠さんが工房のドアを開けます。 『ギギギ…』 静かな夜に響き渡る開聞の音。 中を覗き込むと、窯と向かい合う親方。 静寂の中に、ただひとり…いや、おそらくそこにいるのでしょう。 先代と二人、酒を酌み交わす姿。 思わず、匠さんと二人、固唾を飲み込みます。 「よし」 小さく、つぶやき、気合を入れる匠さん。 「親父!」 声をかけると共に勢いよく工房へと突入する。 親方さんは、もくもくと酌を続ける。 「親父、ちょっといいかな」 「なんだ」 「コーヒーでも飲まない?」 「コーヒー?」 親方は、匠さんの後ろに控える僕を一瞥する。
/181ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加