4話。 《職人の魂》

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匠さんが雄叫びで沈黙を破る。 「ま、マジか?親父。いいできって言った?」 「ああ。だが、じいさんの土台があってこそだ。そして、客人…。なんといったか?」 「た、黄昏です」 「黄昏さん。あなたの気持ちも含まれているのでしょう?それらが合わさって、いいできだと言っている」 「お、おう?」 「お前の腕が悪いとは言っていない」 「お、おう…」 「だがまだまだだ。たまたま今回はいい条件が揃っただけだ。胆に銘じろ」 「お、おう…?」 「・・・褒めている」 「まじか。や、やった」 匠さんは、僕の手を取り、激しくシェイクハンドを行ったかと思うと、その手を離し、ミル姉さんを手にとり、キスを交わし、ダンスでも踊るかのように跳ね回る。 ((ポッ・・・)) 「やれやれ。これだから言いたくなかった」 親方さんがつぶやく。 「匠、座れ」 「は、はい」 「いいか、よく聞け」 「はい」 「俺がいない時に、お前がこそこそとなにか作っていたことはしっている」 「え?」 「当たり前だ。俺は毎日この炉と語り合っている。炉の微妙な変化も見逃さない」 「…はい」 「お前のセンスはなかなかのもんだ」 「はい!」 「だが、使われた炉を見るとどうだ。腕はまだまだだな」 「…はい」 「これまでは、愛情が足りなかった。形だけの創作。想いはあったのかもしれんが、魂がこもっていなかった」 「…はい」 「お前の作品も見た。輝きがたりないな」 「…はい」 ここで親方さんは、ふっと小さく笑いをもらす。 「俺はな、正直お前やじいさんみたいなセンスは持ち合わせていない」 「は、はい」 「だから、俺は伝統的なものばかりを作ってきた。ひとつひとつに魂を込め、ひとつひとつを極限まで輝かせる。これに命をかけてきた」 「はい」 「魂の込め方だけは負けていないつもりだ。じいさんにも負けていないつもりで作っている」 「はい」 「いいか、俺がお前に教えられるのは、魂の込め方。この一点しかない」 「…。」 「だからな、明日からはお前にそれを教える」 『ゴクッ』 「明日からはお前もモノを作れ」 「は、はい」 「ただし、お前の好きなもんは作らせん」 「はい」
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