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匠さんが雄叫びで沈黙を破る。
「ま、マジか?親父。いいできって言った?」
「ああ。だが、じいさんの土台があってこそだ。そして、客人…。なんといったか?」
「た、黄昏です」
「黄昏さん。あなたの気持ちも含まれているのでしょう?それらが合わさって、いいできだと言っている」
「お、おう?」
「お前の腕が悪いとは言っていない」
「お、おう…」
「だがまだまだだ。たまたま今回はいい条件が揃っただけだ。胆に銘じろ」
「お、おう…?」
「・・・褒めている」
「まじか。や、やった」
匠さんは、僕の手を取り、激しくシェイクハンドを行ったかと思うと、その手を離し、ミル姉さんを手にとり、キスを交わし、ダンスでも踊るかのように跳ね回る。
((ポッ・・・))
「やれやれ。これだから言いたくなかった」
親方さんがつぶやく。
「匠、座れ」
「は、はい」
「いいか、よく聞け」
「はい」
「俺がいない時に、お前がこそこそとなにか作っていたことはしっている」
「え?」
「当たり前だ。俺は毎日この炉と語り合っている。炉の微妙な変化も見逃さない」
「…はい」
「お前のセンスはなかなかのもんだ」
「はい!」
「だが、使われた炉を見るとどうだ。腕はまだまだだな」
「…はい」
「これまでは、愛情が足りなかった。形だけの創作。想いはあったのかもしれんが、魂がこもっていなかった」
「…はい」
「お前の作品も見た。輝きがたりないな」
「…はい」
ここで親方さんは、ふっと小さく笑いをもらす。
「俺はな、正直お前やじいさんみたいなセンスは持ち合わせていない」
「は、はい」
「だから、俺は伝統的なものばかりを作ってきた。ひとつひとつに魂を込め、ひとつひとつを極限まで輝かせる。これに命をかけてきた」
「はい」
「魂の込め方だけは負けていないつもりだ。じいさんにも負けていないつもりで作っている」
「はい」
「いいか、俺がお前に教えられるのは、魂の込め方。この一点しかない」
「…。」
「だからな、明日からはお前にそれを教える」
『ゴクッ』
「明日からはお前もモノを作れ」
「は、はい」
「ただし、お前の好きなもんは作らせん」
「はい」
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