4話。 《職人の魂》

13/14
前へ
/181ページ
次へ
「作らせるのは伝統品だけだ」 「はい」 「お前が好きにものを作れるのは、俺がお前の作る品に、魂が籠っていることが確認できた後だ」 「はいっ!」 「気張れよ」 「はいっ!!」 匠さんは立ち上がると、直立不動で返事をする。 …その様子は子弟そのもの。 親子ではなく職人とその後継者となるべく己を磨く弟子。 その後も、子弟の語り合いは延々と続いた。 ここは、僕は去ったほうがよさそうだな。 「すみません、僕、眠いんで失礼させていただきます…」 そっと席をたち、工房を後にする。 工房のドアを閉めようと、最後に中をのぞいたとき、そこには確かに3人の気配を感じた。 職人と、弟子と、溶鉱炉のところにもう一人…。 翌日、「ありがとう」と何度も繰り返し、「またおいでや」と、涙ながらに送り出してくれるおばあちゃん。そしてその家族に見送られ、僕はバスに乗った。 きっと、おばあちゃんもあの工房の様子をどこかから覗いていたのだろう。 おじいさんと匠さん、そして、自身の息子である親方さん。それぞれの理解者である彼女が、1番もどかしい思いをしていたに違いない。 最後にみた、おばあちゃんの屈託のない笑顔が、僕の心を晴れやかにしてくれた。 ちょっといいこと、しちゃったかな。 なんてね。
/181ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加