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「作らせるのは伝統品だけだ」
「はい」
「お前が好きにものを作れるのは、俺がお前の作る品に、魂が籠っていることが確認できた後だ」
「はいっ!」
「気張れよ」
「はいっ!!」
匠さんは立ち上がると、直立不動で返事をする。
…その様子は子弟そのもの。
親子ではなく職人とその後継者となるべく己を磨く弟子。
その後も、子弟の語り合いは延々と続いた。
ここは、僕は去ったほうがよさそうだな。
「すみません、僕、眠いんで失礼させていただきます…」
そっと席をたち、工房を後にする。
工房のドアを閉めようと、最後に中をのぞいたとき、そこには確かに3人の気配を感じた。
職人と、弟子と、溶鉱炉のところにもう一人…。
翌日、「ありがとう」と何度も繰り返し、「またおいでや」と、涙ながらに送り出してくれるおばあちゃん。そしてその家族に見送られ、僕はバスに乗った。
きっと、おばあちゃんもあの工房の様子をどこかから覗いていたのだろう。
おじいさんと匠さん、そして、自身の息子である親方さん。それぞれの理解者である彼女が、1番もどかしい思いをしていたに違いない。
最後にみた、おばあちゃんの屈託のない笑顔が、僕の心を晴れやかにしてくれた。
ちょっといいこと、しちゃったかな。
なんてね。
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