4話。 《職人の魂》

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*****喫茶 はるのかぜ **** 岩手から帰ると、僕はその足で『はるのかぜ』へと訪れた。 その足で、といっても、家の隣なんだけど。 ((ただいま…)) 「やあ、なおったよ」 ミルをカウンターに置きながらかけた僕の一声に、春乃は驚く。 「なおったって、与一くんが直したの?」 「まさか。岩手の職人さん」 「岩手!?岩手まで直しにいってたの?」 「うん。まぁ」 「ちょっと…なんか、ごめん!」 「いいよ。それに言葉間違えてるよ」 「あ、ごめん、そっか。ありがとう」 「いいえ。それより、コーヒー、淹れてみてよ」 「あ、うん」 じっくりとミル姉さんを見つめる春乃。 「ねえ、なんか、前より素敵になってない?」 ((そうよぉ。もっと見てぇ)) 「なってると思うよ。色んな想いが籠ってるからね」 「え?」 「んーん、なんでもない。さ、はやくコーヒー」 「あ、はいはい」 春乃は豆を注ぎ、ミルのハンドルを回す。 『ガラガラガラ』 『ガラガラガラ』 『ガラガラガラ』 心地よい響き…。 まるで、歌っているような…。 春乃の目には、うっすらと涙がたまっている。 「はい、お待たせ」 差し出されたコーヒー。 「春乃ものみなよ」 「うん。ありがとう」 そっとカップを口につける。 「おいしい」 「おいしい」 満場一致の見解。 いろんな想いが籠ったコーヒー。 これほどまでに心がやすらぐ、おいしいコーヒーは飲んだことがない。 「与一くん…本当にありがとう」 春乃は我慢しきれずに、涙をながしてしまったようだ。 ((与一郎さん、ありがとう)) 「いいえ」 僕は満面の笑みで返す。 ――― 出納帳 ――― 今回の出入り。 交通費:往復30,000円 宿泊費:0円 現品仕入:南部鉄器の二級品、大量/毎月 その後、毎月のように匠さんが作った鉄器が無料で送られてくるようになる。 一応、親方さんがOKを出したものに限られているらしい。 この商品は、日に日に出来がよくなっていき、ゆくゆくはうちの看板商品となっていく。 それと、僕の楽しみが二つほど増えた。 はるのかぜで飲む、良質なコーヒー。 そして、鉄器と共に送られてくる冷凍された“ひっつみ汁”。 こっちの伝統も、受け継がれていくといいな。 頑張れ、匠さん。いいお嫁さんをもらってね。 めでたし、めでたし。
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