1話。 《街の外れの骨董堂》

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…たたずむ女性。 …いつから居たんだろ。 …どこから聞いてたんだろ。 …僕の独り言。 「すみません、だ、大丈夫ですか?」 …おかしな人だと思われてたらやだなぁ。 「だ、大丈夫ですよ」 にこにこ。 「す、すみません。こういう所はじめてで…ちょっと入りにくかったので緊張してるんですが、大丈夫ですか?」 「大丈夫です。安心してください」 入ってますよ。 …すみません、つい。 「いやいや、どういったご用件ですか?」 とにかく明るく。 「あの、これを売りたいんですけど…」 恐る恐る、紙袋から取り出したのは、壺。 「ほう…」 これはこれは、なかなかの逸品。 形の整った備前焼。 おそらく大正くらいに作られたもの。 「なかなか…」 でも箱もなければ刻銘もない。 「いい品ですけど、箱とかありませんかね?」 「すみません、ないんです」 「もったいない。作者がわかれば値打ちも変わるんですが、今の状態だと2000円くらいですかね」 「いいんです。値段はいくらでも。引き取ってもらえますか?」 「いくらでも?」 「はい。手放したくて」 ん~~… 『手放したくて』かぁ。 品物自体はなかなかいいんだけど、さっきから気になってるのがこの壺にとり憑いているオッサンなんだよなぁ… 「あの、差支えなければ、手放したい理由などお聞かせ願えますか?」 「はい。すみません、そうですよね」 すみませんが多いこだな…。 日本人らしいっちゃらしいか。 「実は、この壺は昨年亡くなった父が大事にしていたものなんです」 ((お、俺と一緒じゃねぇか)) まだいたのか親父殿。 「それで、お仏壇に供えていたのですが…」 壺に憑いたオッサンはこの娘のお父さんか。 「こないだからなんだか、声が聞こえるような気がして…」 ふむ。 「どんな声が?」 「はっきりとは聞き取れないんですけど、『やめろ~』とか…」 「なにか、聞こえるようになったキッカケとかありますか?」 「ええ。父の仏前で、彼氏にプロポーズされた事を報告したんです」 「あら、おめでとうございます」 「すみません、ありがとうございます」 いや、ここ、すみませんはいらんでしょ。 「その頃から?」 「はい。たぶん、その夜からだったと思います」 なんだ、父親の嫉妬か。
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