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「夢現を彷徨う間、僕みんなのことを考えたの。それこそ僕に関わるありとあらゆる人のこと――愛や欲望や憎悪やただの好奇心、下心、高尚な感情から下劣で残酷な思念までぜんぶ追体験してたんだ。ある時は闇の中、ある時は温かい腕に抱かれて。それはね――」
それまで胸に留めていたものが
堰を切ったように
和樹は一息に喋り出した。
「それはまるで長い映画を見てるようだったよ。目的地のないロードムービー。僕の人生はいつだってそうさ。人の手から人の手へ、自分の意志で動いてるようで決してそういうわけじゃない。もちろん到達点はいくつかある。辿りつくたび噛みしめるんだ。よし、僕はうまくやってるて――それでも安心するのはほんの一瞬。すぐに次なる不安と欲求が襲いかかってくる。満たされない、満足しない、次へ進め、やり尽くせって」
握った手に痛いほど力が籠る。
俺の渋面に気づいた和樹は
「だからね、お兄様、僕が何が言いたいのかというと」
優しく手を握り直すと
口から細く息を吐き言った。
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