楠木廉の鬱屈

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心ゆくまで作品を堪能して、美術館を後にした。    遅いお昼を食べようと入った駅前のソバ屋のカウンターで、偶然杏奈さんと並んだ。 お互い、一瞬驚いたけれど、でも、まあ、縁でも何でもない。 田舎の住宅街の中にある、小さな美術館。 小さい駅前には、蕎麦屋くらいしか、飯を食える場所はない。 鉢合わせても、不思議はない。 不思議なのは、蕎麦を待つ間に交わした二言、三言がとても自然だったってコト。 蕎麦食い終わった後、向かいの喫茶店でコーヒー飲みませんかって、おれから誘ったってコト。 カフェなんて洒落たものないから、昔ながらの赤いビニールソファーに座って、黄色いシャンデリアの下でコーヒーを飲んだ。 不思議なくらい、自然に話ができた。 布の作家のコト、おれの好きな色のコト、杏奈さんのすきなお茶菓子のコト…。
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