坂崎手芸店員の憂鬱

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「うわっ、頭ばっか使っているじゃないっすか、先輩」 「あ…あ、この前、刺繍針持って寝落ちしてた」 「うぇ、あぶないっすよ」 「廉は大丈夫だよな」つかむニヤンと端切れを一つ一つセットにしながら、保が少し笑って言った。「良く気づく、美人の同居人がいるからな」 「「うらやましい!」」 力也と篤志がハミングして叫ぶ。 「オレなんて、このガタイで毛糸持っていると、ゼッテーキモいって言われるのに…」 「ポクは、常に賄い担当ですよぉ」 「そーんなコト言って! お前らだってそれなりにモテるだろう、選り好みし過ぎだよ。 いや、二人して睨むなよ、それを言うなら、手芸男子全開で受け入れられているのは、たもっちゃんだろう、手芸教室はいつも満員、女子はよりどりみどりじゃないか」 廉の言葉に、いつものように少し笑う保の顔を下から覗きこみながら、力也が素朴な感想を述べる。 「あー、確かに!この前の手芸教室なんて、JKばっかで、保さん、囲まれて優雅に笑ってた…ケド、何か、なぁ…真っ白だった」 他の三人が分けわからんっという顔をしたのに慌てて、力也が考え考え、言葉をつなぐ。 「いやー、オレ、文学的才能ないから、うまく言ないんすケド、なんつーの、女子に混ざっても違和感なくて…かと言って、保さんが女子ってカンジでもなくてぇ」 「わかる!力也の言う感じ、人畜無害感半端ないから、女子に混ざれるんですよね、まっさらの無臭って感じでしょうか」 「あ…あ、だから女子に囲まれていても、あまり羨ましいとも思わないのか?」 「「いや、そこは羨ましいっ!」」  クスクスと笑いながら、保が立ち上がった。テーブルの上には、小分けされた手芸教室用キットが山盛りになっている。 「分けわかんないよ、お待たせ、飲みに行こう」  キットを段ボールに入れて、蓋をしてから上に黒猫のつかむニヤンを置いて、保がパーカーを羽織る。 ゛欲しいものが決まっているから、他に手が伸びないだけだよ゛ 保がひっそりとつぶやいた声は、「腹へったー」と叫びながらドタドタと階段を降りる力也たちには届かなかった。 段ボールの上の黒猫だけが、その声を聞いていた。 image=495933859.jpg
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