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俺 はばかじゃないから、仕方がないって分かっている。
隣町の結婚式場で、新郎新婦の隣で列席した人々に頭を下げながら、保はにこやかに笑っていた。
通りすぎて行く人々は、晴れやかな表情で大きな紙袋を持ってゾロゾロと会場を出ていく。
隣の親父が涙ぐみ、それを笑いながら姉がハンカチを貸している。
あっ、ちょっといい風景だな、海外ばかりで父親らしいはことなんか、なんにもしてもらってないケド、まあ、この人はこーいう人だからな。
苦笑気味に親父と姉の方を見た瞬間、反対側で同じようにこちらを見ている新郎、すなわち姉の夫と目が合った。
元、保の雇い主、現、義兄の地位を獲得した楢崎俊哉は、保の目を見たまま、口角を少しだけあげて、にやり、と笑った。
゛いいだろう、お前のねーちゃんは俺のモンだ゛
目が、そう語っていた。
保には、そう思えた。
アラフォーのバツイチ男!
なんで、こんな奴に大事な姉さんを盗られなくっちゃならないんだっ!
保の心の声が聞こえたかのように、楢崎は姉の肩に手を回し、ハンカチで鼻をかんでいる親父に話しかける。
「お父さん、泣かないでください。透子は手芸店も続けるし、新居も店のすぐ近くです、淋しくなんて、なりませんよ」
だめだ、ムカムカしてきた!
姉さんは変わらずに近くにいてくれるのに、これからは、いつも、所長がこぶみたく、ついてくるのかよっ!
「ねえ、保くんも、僕のとこは飛び出しちゃたけど、手芸店で働くなら、いっつも、会えるものね!」
…最後のフレーズだけ、でかい声だすなよ。
俺は、別にあんたが嫌で辞めたんじゃない。
ただ、もう無理だったから。
好きじゃないことを仕事にするのが、こんなにしんどいなんて思わなかった。
だから、逃げたのに、妙に親切な所長は、心配して、何度も手芸店に足を運んでくれて、顔を出してくれて、姉に手まで出しやがった!
腹立たしいことに、さっきの披露宴で、俺は愛のキューピッドと言われた!
違うからっ!
ゼッテー、違うからっ!
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