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「うわあああああ!」
夜道に哀れな子羊の叫び声が響く。
最近は噂が広まり、地元の人は恐れをなしてあまり通らなくなったこの道に、よそ者のイケメンが通りかかったのが運のつき。
脱兎のごとく逃げ出したイケメンの後姿を、うっとりとした表情のオネエが見つめていた。
「ほんと、サイッテー。」
僕は相手にしなければいいのに、あまりの醜態につい声に出してしまった。
オネエ妖怪垢舐めは、振り向いて憮然とした。
「何よ、食事しただけじゃない。私に飢え死にしろっていうの?」
僕は溜息をついた。
「何も、こんな所で襲わなくても。銭湯とか行けばたくさん舐められるじゃん。お風呂の桶とか、浴槽だとか。」
オネエ妖怪は鼻息を荒くした。
「いやよ、風呂桶とか浴槽なんて。やっぱり生の新鮮なものがいいに決まってるじゃない。それにね、銭湯なんてジジイしか居ないわよ!」
「若い人も居るかもしれないじゃん。」
「いいえ、経験上ほぼ皆無ね。イケメン率も低いし。私はね、グルメなの。おいしい美少年の物しか口に出来ないの!」
ああ言えばこう言う。本当に口の減らないオネエだ。
「あーあ、ここは薄暗くてなおかつ、学生が通るから、いい穴場だったのになあ。最近噂が広まっちゃって、めっきり通行人が少なくなっちゃったわ。そろそろ場所を変えようかしら。」
「贅沢言ってると、ホントに飢え死にしちゃうからね。」
僕は不思議だった。
何で僕は妖怪と普通に話してるんだろう。
「ところで、アンタ、あの翼君にはもうアタックしたの?」
唐突にオネエ妖怪がたずねてきた。
僕は名前を聞いただけで、心臓が喉元まで競りあがってきた気分になった。
「アンタには関係ないでしょ!」
僕は焦ってそう言った。
すると、オネエ妖怪は僕の周りを1周ほど周り、舐めるように見回した。
「まず、その格好じゃダメね。」
妖怪にダメだしをされた。しかもオネエに。
僕の今の格好は、ジーンズにボタンダウンのシャツ、その上から半そでのパーカーを羽織っていた。
「どこから見ても、僕ちゃんだもの。」
オネエ妖怪はフウっとわざとらしく溜息をついた。
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