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「それにしても、アンタ、私のことが見えるのね? 普通の人間には見えないはずよ。アンタ、もしかしてそういうの見える子なの?」
オネエ妖怪は言った。
僕は頭をブンブンと横に振った。
生まれてこの方、幽霊や、そういう類の物は見たことも無い。
このオネエが妖怪だと言うことすら、まだ信じられないのだ。
「フーン、だとすると、アンタの身近にそういう人がいるんだ。
そういうのって影響受けるみたいだし?」
誰だろう?そんな人は心当たりがない。
「まあ、アンタは僕ちゃんにしか見えないけど、女の子の一人歩きは危ないわ。早くお帰り。」
オネエ妖怪は、踵を返して夜の闇へと消えていった。
あくる朝、いつも通り、学校に行った。
教室に入るとすでに、何人か登校してきていた。
「あそこ、出るらしいんだ。」
教室の一角で男女のグループが何事か、声を潜めて話している。
「暗い夜道を歩いているとさ、いきなり後ろから首筋を舐めてくるんだって。」
「えー、きもーい。何それー。」
女の子は本気で気持ち悪がっている。
「それでさ、びっくりして振り向くじゃん?そしたら、そこには誰も居ないんだって。」
女の子は自分の腕を抱きながら
「えーやだー。こわーい。」
心底怯えている。
「いや、それが女の子は大丈夫なんだ。」
「え?どういうこと?」
「その被害は男限定、しかも若いイケメン限定なんだ。」
「そんなバカなー。もー、嘘ばっかり!」
「いや、マジマジ。俺の友達が被害にあったんだから、間違いないよ。」
僕、知ってる。
それはたぶん本当の話だ。
だって、僕が昨日被害に遭ってるし、その都市伝説の本人(?)と会話してるから。
でも、こんなこと、誰にも言えないよ。
信じてもらえるはずがない。
それは妖怪垢舐めで、しかもオネエだなんて誰が信じる?
言えばいい笑いものになる。
僕の心の中だけにしまっておいた。
「おっはよー、みなみー。」
日向子と翼が一緒に教室に入ってきた。
一緒に登校して来たのかな。
そう思うだけで、僕の胸がチクリと痛んだ。
僕は知っている。
翼はたぶん日向子が好きだ。
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