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旅客機の機内は時折子供の声が小さく聞こえる以外は静寂に包まれていた。深夜の機内の静寂の中でエリックは目を覚ました。
「ああ、今どの辺だろう」
背中の軽い痛みを緩めるように体を揺さぶって起きて辺りを見た。時計を見ると真夜中の三時を少し回っていた。そしてまた目を閉じた時にガクンと機体が揺れた。エリックは辺りを見回すと他の乗客も同じように見回していた。すぐにあちこちで何が起きたんだと声が聞こえた。そしてまた大きく揺れた。女や子供達の悲鳴が響いた。
更に機体が大きく揺れて上から酸素マスクが落ちてきた。エリックはそこから意識がもうろうとした。覚えているのはそれから数秒後に体が浮いた時までだった。気が付くと廃墟のビルが見える砂漠に横たわっていた。近くにアンディとメアリーが倒れていた。
それから今まで雨水や野草で何とか飢えをしのいできた。そのせいか三人共、随分と痩せ細った。動物もいなかった。なぜか植物だけが生息している世界だった。
フロアにメアリーが戻ってきて三人はしばらくビルの中を歩き回った。オフィスは荒れない状態で残っていた。机が整然と並んで薄いノートパソコンが所々に転がっていた。エリックはおもむろに一台のノートパソコンを広げて電源ボタンを押したが応答はなかった。今までもそうやってノートパソコンの電源を入れて試してきたので他の二人は何とも思わずに事務机の引き出しを開けて書類を調べたりした。
「知らない地名があるけど多分この辺りの町でしょうね」
メアリーは書類に目を通しながら言った。
「まるで普通に仕事していた状態だ。ここで働いていた連中はどうしたんだ」
アンディも書類を束ねながら呟いた。
「今まで調べた街と同じだ。死体もない。いきなり消えたのか」
「それか生き物を跡形もなく消す兵器が使われたとか」
エリックの独り言に付き合うようにメアリーが答えた。
「仕組みはわからないが未来の世界ならそういう事も起こり得るんじゃないか」
「ああ、そうだな」
「せめて食べ物が残っていたら…」
三人は疲れた口調で話しながら辺りを調べた。しかし特に何も見つからなかった。
日が傾いてきた頃、三人はビルを出て近くのホテルと思われる建物に入った。
ロビーにある堅い椅子で各々横たわった。
「私達もう戻れないのかしら」
メアリーは疲れた口調で呟いた。
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