ストーリー ストーリー

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「じゃあ、 八木ちゃん、 頼むね。 丹治さん、 ごめんね、 付き合えなくて。 八木ちゃんに、 何でも頼んじゃって」  と言って送り出した。  「あ、 よろしくお願いしまーす…やぎちゃん!」  と、 香澄はふざけて呼んでみた。  「へいへい、 と。 ええと、 歩くのは大丈夫?車、 あすこだから」。 香澄にとって、 俊也は初対面ではなかった。 ドロップゾーンで幾度かは見かけたことがあった。 直接関わることはなかったけれど、 事務的には口だって利いたことがある。 目立たない、 どちらかというと地味な物静かな感じの人という印象だった。 でも今日は“個人的に”優しいし、 思いがけず親しみが持てた。 それは俊也の方にも、 次第にうちとけてくれそうな雰囲気があったからなのか。 真黒に日焼けした俊也の横顔は、 ちょっと頼もしかった。 車に乗り込むとすぐ 「ええと、 クリニックまでは十五分ぐらい。 駅の近くだから。 終わったらそのまま駅まで送るけれど」  と、 俊也が話し始めた。
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