第2章 『漸進(ぜんしん)』

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天井に備え付けられた LED灯の下で見るプレハブハウス内は先日、太陽の光の下で見た時とは随分違って見えた。それは明るさだけのせいではなく、5個あるデスクの、その上が綺麗に片付けられ整理されていた事が少なからず影響しているように思えたが、倒れていた椅子はそのままの形で残されてあった。 「……なくなっている物がないか、聞いてみましたか」 「はい。でも、盗られた物はないと」 ドアを閉めたプレハブハウス内には卓司と里村、深瀬、尚也の他に堀内というスコップを持った先程の若い捜査員の計5名が窮屈そうに立っており、また、プレハブハウスの外では中に入れなかった神部と別の捜査員1名が待機をしていた。そして、食器棚を背にした卓司と割れた窓ガラスを背にし、両腕を組んだ里村が泉沢が倒れていた辺りを見ながら言葉を交わしていた。 「パソコンの方は?」 「調べた限り変わったところは見つからなかったが、コピーされていればどうしようもないし、それは確かめようがないと……」 「そうですか……それと、この前頼んでおいたカップ麺の件は?」 「他のプレハブハウスにも個人で1、2個、デスクの引き出しの中にしまっておいた人は何人かいましたが、ここのように大量に買い溜めしているところはなかったです」 「では、割り箸も?」 「はい、袋ごと買っているところはここだけでした」 それを聞いて卓司は大量のカップ麺と割り箸がある食器棚の方を一度振り返るが、直ぐに里村の横顔に目を向ける。 「……じゃあ、早速、始めましょうか」 「倒れ方と割り箸、どちらから始めます?」 「折角、スコップを持って来ているので倒れ方から始めましょうか」 「分かりました。で、どうします?」 ここで卓司は先日の深瀬との電話の中で明かさなかった自分の考えを披露する。聞き終えて真っ先に食い付いて来たのは椅子が倒れている、入って直ぐの所にあるデスクの側に立っていた深瀬であった。 「……それって害者の右腰にあったアザから逆算してみれば良いって事ですよね」 「うん。泉沢君がどこに座っていたか、あるいは、どこに立っていたかが分かれば泉沢君は犯人と面識があったのか、犯人は右利きかどうかの一応の推測はできると思うんだ。但し、スコップが大きく振れないとダメだし、椅子が倒れていた事と血痕がドアの前にしかなかった事から考えると」 「このデスクですか」
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