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明かりがドアから漏れている守衛小屋の前で止まっていた先頭の車が再び動き出すと、後に続く2台の車もユックリと動き出し、3台の車は右折をして闇に消えた。
ヘッドライトの明かりが届く範囲には当然、限りがあるが、それでも4日前に来た時とは敷地内の雰囲気が随分変わっているような気がした。着々と建設の準備が進んでいるのであろう。そして、何故かしら前方に見えるプレハブハウスに明かりが灯っていた。
尚也が車をプレハブハウスの左脇に止めた深瀬の車の左隣に並ぶように止めた時、里村は車から降りるところで、プレハブハウスから洩れる明かりのお陰で里村や他の捜査員達の行動を多少なりとも把握する事はできた。
助手席側のドアを開けた卓司は、運転席に残っている尚也よりも先に土の感触を味わう。プレハブハウス周辺を除けば辺りは真っ暗闇、遥か先に宿泊施設の小さな明かりが見えるだけであったが、自分が立っている左手、宿泊施設寄りに何か大きな物体がある事に気づく。
「……あれっ、もう出来てたんだ」
独り言を呟いたつもりであったが、その言葉に里村が直ぐに反応する。ただ、暗くて顔の様子までは分からない。
「昨日の午後には完成したみたいです」
「それで、引っ越しは?」
新しいプレハブハウスが建てられる事をスッカリ忘れていた。事務所内の様子が変わってしまえばこれから行う実況見分にも影響は出て来る。
「防犯カメラの取り付けや暗証番号方式のドアに替えたりするのに時間が掛かるのと、今日、床にコンクリートを流し込んだのでの早くても週末だそうです」
「そうでしたか。ところで古いプレハブハウスの方に明かりが点いてますが」
「署を出る際に私が荒木田さんに電話をして鍵を開けておいてもらったのです」
「それと、今、7時半過ぎですが、新垣さん達の方に連絡は?」
令状による強制捜査と違って任意捜査に時間的な制限はないが、余りにも遅い夜の訪問は失礼に当たるし、何と言っても相手は法律に詳しい強者である。
「あっ、それなら私がしておきました」
答えたのは車から降りて来た深瀬であった。
「何時に行くか言った?」
「ハッキリとは言ってませんが、遅くなるとは言ってあります」
「分かった。里村さん、取り敢えずは急ぎましょう」
「そうですね」
卓司の声に急かされるかのように里村達は暗闇の中、明かりが洩れるプレハブハウス目指し急ぎ足で歩いて行った。
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