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深瀬が指差したのは自分が今っている背後に傘立てと冷蔵庫がある、壁から約 2.5メートル離れているドアに一番近いデスク。そこなら利き腕に関係なく長さ約1メートルのスコップを思いっ切り振り回す事ができ、卓司の言う条件にも合っているように思えた。
「うん、多分、そうだと思う」
「後はどっちを向いていたか、ですよね」
深瀬がそう言いながら体の向きを色々変える。その姿を見て最初に口を開いたのは深瀬が立っていたところから少し離れた所、コピー機の近くに立っていた尚也であった。
「右腰付近にアザがあったんですから、ドア側を向いていたんじゃないですか」
普通、右側頭部を強く殴られれば体は右側に倒れ込むから尚也の言う事が正しいように思われた。そして、座っていたか否かを確認するには泉沢の身長を聞く必要があった。
「尚也君、泉沢君の身長ってどれくらい?」
「そんなに高くはなく、170センチくらいだったと思います」
「って事は、デスクの高さが……約80センチだから……」
卓司は自分の目の前にあるデスクの高さを目で測る。身長が170センチなら腰の高さが80センチ以下という事は通常考え難く泉沢が座っている時に襲われたという考えは一応、度外視して良い事になる。詰まり、泉沢は犯人と向き合っていた事が分かる。だが、面識があったか否かは泉沢がドア側を背にして座っており、立ち上がって振り向いた際に襲われた可能性もある事から実際に犯行を再現しなければ結論を出す事は出来なかった。
卓司は2個のデスクを挟んで向かいに立つ深瀬と尚也に交互に目を向けるも2人とも背が高くて泉沢の代役には適してなかったし、里村の左隣にスコップを持って立つ堀内という捜査員の背も卓司と同じくらいであった。
「……失礼ですが、里村さん、身長はいくつですか」
「私ですか? 私は171センチです」
171センチなら申し分ない。
「スミマセンが、泉沢君の役をやって頂けませんか」
「ええ、構いませんよ」
「じゃあ、深瀬君、悪いけど里村さんと場所を替わって」
二つ返事で害者役を引き受けた里村は深瀬が今しがたまで立っていた場所、デスクから20センチ、傘立てから約1メートルの所にドア側を向いて立つ。
「え~~っ、もう分かったと思うけど、泉沢君は立っている時に襲われと見てほぼ間違いがない。ならば、犯人と対峙している……」
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