第2章 『漸進(ぜんしん)』

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と、ここで卓司の隣に立つ深瀬が卓司の言葉を遮る。 「……分かりました。詰まり、犯人は右利きで、害者と面識があるって事ですよね」 だが、深瀬の言葉に卓司は困ったというような表情をする。 「確かに、その可能性が一番高いんだが、一概にそうとも言い切れない」 「えっ、どうしてですか」 深瀬は両目を見開いていて驚くが、それは自分の考えを否定されたからではなく、他の可能性に全く気づいていない事が原因のように思われた。 「例えば、泉沢君がドア側を背にして座っていて、物音などに気づき、立ち上がって振り向いた際に殴られたとも考えられる。この場合には必ずしも犯人と面識があるとは言えないだろう」 「成る程。考えが浅かったです。では?」 「どうすればドア前に仰向けに倒れていた泉沢君を作り出せるのか、それを確かめる為、考えられる事を実際にやってみるしかないんじゃないかな」 「詰まりは色々な可能性を検討し、確かてみめるって事ですか」 「うん。犯人と面識がある場合とない場合に分け、それに泉沢君がどちらを向いて座っていたかを組み合わせる」 その後、卓司は深瀬達に向かってその組み合わせを具体的に明かす。卓司の言う組み合わせとは以下の通りである。 (1) 犯人と面識がある場合で泉沢が  ① ドア側を向いて座っていた場合  ② ドア側を背にして座っていた場合  ③ デスクの正面を向いて座っていた場合  ④ 壁を向いて座っていた場合 (2)犯人と面識がない場合で  (1)と同じ ①~④ の場合 「……勿論、犯人が入って来た時に泉沢君が立っていた場合も考えられるが、それは基本的には座っていて立ち上がった場合と同じ事だから別にやらなくても良いと思う」 卓司は言いながら一度自分の腕時計を覗く。 「時間も余りないようだから早速やるとしようか。じゃあ、里村さん、申し訳ないですが、先ずはドア側を向いて座ってみて下さい」 「分かりました」 里村は倒れていた椅子を起こし言われた通りにドア側を向いて座る。 「それと、堀内君って言ったかな」 「はい」 「悪いけど、君は犯人役ね。スコップを持ったまま一度外に出て、中から声を掛けるから聞こえたら普通に入って来てよ」 「分かりました」 そう言うと堀内はスコップを手にしたままドアを開けて外に出て行った。
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