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堀内に替わって外で待機していた神部と別の捜査員が中に入り、プレハブハウス内は椅子に座った里村とその背後に立つ尚也、ドア付近に立つ卓司と深瀬、更には上司のデスク前に神部、別の捜査員1名が立つ事で、自由に動けない状態になってしまう。
「……今7時45分、泉沢君が襲われた時間帯とほぼ同じ。 これから犯行を再現する訳だけど、実は、泉沢君が何もせずにただ座っていた場合を想定している」
「えっ、どういう事です?」
驚きの声を上げたのは卓司の前に座っている里村。卓司は里村の方に顔を向け丁寧な口調で話し始める。
「例えば、泉沢君が電話をしていたり、なくなった携帯で音楽を聞いていたり、あるいは動画を見ていたりしていた場合などは考えていないという事です」
「成る程」
「ですから、 ドアの開く音に泉沢君が気づいたかどうかが一応は決め手になるのです。それと、泉沢君の頭にあった傷から犯人の身長、泉沢君との身長差、泉沢君側からの視点のみで犯人側の立場を考慮していないなど他にも色々と考えないといけない事もあるのですが、それらは追々考える事として取り敢えず、やってみましょう」
やや抽象的で理解できない点もあったが、卓司の『ゴーサイン』に誰もが息を潜め室内は水を打ったように静かになる。卓司と深瀬はドアから少し離れ、そして、直ぐに卓司のやや大きめ声が室内に響き渡る。
「……堀内君、入って来て良いよ」
ドアの開く音がするのか、深瀬達は一斉にドアの方に耳を傾ける。外の音はプレハブハウス内に一切届かない。暫くして『カチャッ』という音ともにドアが外側に開いて左手にスコップを持ったスーツ姿の堀内が、暗い中からその姿を表す。気になるのは当然、泉沢役を演じている里村の反応であった。
「どうです、里村さん、音は聞こえましたか」
「はい」
「姿は? 堀内君の顔は見えましたか?」
「姿も顔もハッキリと見えました」
「スコップを持っている事も確認出来ましたか」
「ええ」
緊張感が漂う中、卓司と里村の声だけがプレハブハウス内に流れ、何も知らされていない堀内は開け放たれたドアの前でスコップを片手にただ立ち尽くすのみであった。
「……では、今の状況下に於いて犯人と面識があったか否かで場合を分けて考えてみましょう」
そして、卓司が学校の先生のように問い掛けると、それに答えたのは深瀬であった。
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