第1章 『黎明』

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〔1〕 太平洋戦争終結から約90年もの長きに亘(わた)り、我が国日本は隣国北朝鮮・韓国や中国との緊張関係を保ちながらもどうにか平和を維持して来たが、2035年初頭、北朝鮮が核を保有した可能性が高いというショッキングな事実がアメリカホワイトハウスから日本政府に伝えられマスコミがその事実を報道するや、国民の間に北朝鮮に対抗する手段を講じるべきだとの声が急激に高まり、国会でも憲法9条を改正し自衛隊を軍隊として認め、政治的声明に過ぎない非核三原則を廃して核弾頭ミサイルを保有すべきであると主張する強硬派が優勢になりつつあった。 一方、2016年頃から始まった農産物の関税の自由化で長い不況から抜け出した日本経済は株価も安定し一応好調の様相を呈していたが、国外の安い農産物に圧された日本の農業は壊滅状態に陥り、2020年代後半には農産物などの自給率は2割にまで落ち込み、ついには食糧供給の約8割を国外産に依存するという有り様であった。その一方で、工業技術・化学・医療・運輸通信分野の発展は目覚ましく、2027年にはリニアモーターカーによる東京・名古屋間が開通し、1970年に始まった人工衛星の打ち上げも順調なペースで成功を重ね、現在では200以上もの通信・気象目的の人工衛星が地球を周回するようになっていた。ただ、約5000トンにも上る『宇宙ゴミ(スペースデブリ)』の問題は世界的にも深刻で、宇宙開発にはその除去が必須であった為、2015年、日本の理科学研究所が考案した高強度のレーザーによるゴミ除去の方法が数年前から実用化され、少しずつではあったゴミ問題は解決に向かっていた。 また、戦後、エネルギー源の主流を原子力発電所に求めていた我が国であったが、2011年頃から世界の潮流に追随するかのように脱原発を図ろうとして主力源を太陽・水力・風力などの代替エネルギーに移行しようとしていたが、その効果は思うように上がっていなかった。 更に、世界各国の努力によるCO2の排出削減によりオゾン層の破壊の拡大は免れていたが、温暖化による異常気象は相も変わらずで、我が国でも2020年頃から日射量が減少の一途を辿って雨や曇りの日が続くようになり、2030年になると、年間の平均日射量は2000年代に比べると半分にまで激減していた。
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