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〔4〕
午後5時前に経産省を出た深瀬と尚也が銀座に着いたのは午後6時過ぎ、辺りは薄暗くなっており、通りの街灯には既に明かりが点いていた。銀座は霞が関から見て東、距離的には数キロ圏内にあるが、思いの外、道路が混雑していて到着迄に1時間近く掛かってしまった。
さて、政策課で部下達から話を聞くも、泉沢とは仕事上の付き合いだけという者が殆どで親しくしていた者はおらず、ここ最近、変わったところはなかったという話であった。そして、その後、門馬局長を始めとする、省内にいた6名の局長から話を聞くが、泉沢と懇意にしていた局長はおらず、また、茂が紹介してくれた知り合いや尚也の大学時代の先輩や後輩に会うも、大した情報は得られず、現段階では『上司』と呼ばれた人物の正体は明らかにする事ができなかった。
今、深瀬達は近くの地下駐車場に車を止めた後、会員証に記された住所を頼りに『鹿鳴館クラブ』を目指して人混みで賑わう銀座通りの歩道をゆっくりとした歩調で2人並んで歩いていた。
「……銀座は久しぶりだなぁ。東房君は?」
「小さい頃には良く来てましたが、最近は……それにしても、すっかり景観も変わってしまいましたね」
「ホントだね、見た事がない建物ばかり並んでる」
嘗て、銀座には景観を損ねないようにする為、建物を建てる場合の規制を定めた自主的な『銀座ルール』というものがあったが、再開発の要望の波には勝てず、現在では高さの制限はあるものの、ある程度の大型ビルディングの建築は認められるようにはなっている。
「……しかし、キレイな人が多いよな」
スレ違うエレガントな薫りを漂わせ、モデル並みのスタイルをした若い女性達に深瀬の心はスッカリ奪われ、目は爛々としている。
「そうですか、夜だからキレイに見えるだけなんじゃないですか」
「どうしてそんな事言うかなぁ、みんな、百華さんみたいにキレイな人ばかりじゃないか」
なぜ、尚也がそんなに冷静でいられるのか、訳が分からない深瀬は不満そうにそう言いながら、洒落た建物の前で待ち合わせをしている女性や友達同士で歩いている女性達を目で追う。
「そんな事より、里村さん、写真はあったと言ったんでしたよね」
「うん。建物が写っている山の写真は確かにあるし、住所録も残っていて、今、その山がどこの山か、住所録にある人物は誰なのか、その特定を急いでいるって言ってた」
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