第1章

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「うん。家は朝はご飯って決まってたの。どんなに時間がなくても、朝は家族そろって食べないといけないの。ご飯とお味噌汁に焼き鮭みたいな、日本人の典型的な朝ご飯が毎日出てくるような家でさ。だからパンに憧れてた。トーストと、ベーコンと、スープにサラダ、みたいなおしゃれな朝食」 「パンが食べたいって言えばよかったのに」 「だめなの。家厳しかったから。どんなに訴えても朝は絶対に和食。納豆とか、海苔の佃煮とか、たくあんとか。バリエーションと言ってもそれくらい」 「そうなんだ」 「だからいつか家を出たら絶対に朝はパンにしようって決めてたの」 「そうなんだ。和食もいいけどね」 「そうかなあ。私が憧れてるのはね、なんていうか……みずみずしい朝!納豆のねばねばじゃなくて、レタスやトマトを洗って水を切った時の水滴がお皿に移した時まだ残ってるみたいな、新鮮さがほしい」 「なるほど。よく分からないけど」 「だって朝は、一日で一番憂うつで、でもだから、張り切らないといけないでしょ?」  そんなわけで、僕たちは次の日朝からポップアップのトースターを買いに行った。彼女が色を気に入った明るい黄緑色のトースターにした。午後には配送が遅れていた家具や洗濯機などの電化製品が届いた。引越しシーズンなので業者の人も大変なのだ。家具や電化製品はほとんど僕が一人暮らしをしていた時のものを引き継いで使うことにした。大学生の時から使っているのでもう6年物になる。食器や歯ブラシなどの小物類はお互い家から持ってきた。僕の今まで住んでいた部屋に彼女の持ち物が加わったみたいな、そんな部屋になった。黒や紺が多い僕の部屋に、ピンクや黄色や水色の彩りが加わった。
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